誰もが知る避暑地・軽井沢。「いつか軽井沢に住んでみたい」訪れた多くの人を魅了する場所です。リタイアしたら、どんな暮らしをしたいですか? 軽井沢に限らず、移住や世界旅行、趣味に打ち込むことなど、思い描く夢は人それぞれ。夢を持つこと自体は素敵なことです。ただし準備不足のまま実行すると、「夢の暮らし」がかえって心配の種になることも。本記事では、Aさん夫婦の事例とともに、後悔しないセカンドライフの準備をFPオフィスツクル代表・内田英子氏が解説します。
軽井沢移住はやめるべきでした。「退職金2,500万円・年金月22万円」60歳定年夫婦、自然に囲まれた第二の人生の挫折…2年後、肩を落とし東京へ戻った理由【FPの助言】
「夢の軽井沢移住」が、わずか2年で“失敗”に終わった本当の理由
「やっと夢が叶ったな」
Aさん(60歳)は定年退職を機に、妻とともに長年憧れていた軽井沢でのセカンドライフをスタートさせました。退職金は2,500万円、年金は夫婦あわせて月約22万円。都内のマンションを売却し、新しい住まいを軽井沢に購入したのです。
万全の計画で始めたはずの移住生活。「これからは自然の中で、ゆったり過ごせる」Aさんの胸は、期待でいっぱいでした。しかし、その先には夢を膨らませた状態で事前に調べたネットや書籍の情報だけではみえてこない、「想定外」の現実が待ち受けていて……。
想定外だった移住生活のリアル
Aさん夫婦が直面した想定外は、主に3つありました。
1. 暖房費とインフラ維持の重荷
引っ越し後初めての冬、Aさんは暖房費の請求額に言葉を失います。薪ストーブの費用が想定以上に高く、ひと冬の合計で約20万円にも上りました。都内のマンション時代(月1万円程度)と比べ、15万円を超える負担増となったのです。
薪の準備や煙突掃除といったメンテナンスも、お金だけでなく体力的な負担に。さらに、都市部では馴染みのなかった「浄化槽」の維持管理費も、年間約9万円の新たな固定費としてのしかかりました。軽井沢では多くの場合下水道が整備されておらず、浄化槽が必要となるケースがあります。ずっと都内に住んでいたAさん夫婦にとって、これまで経験したことのなかったものです。
2. 魅力的な店と、観光地価格の罠
地元の野菜や食材は安く手に入るため、食費は抑えられるはずでした。ところが、軽井沢ならではの魅力的なカフェや飲食店に誘われ、結果として外食費は増加。観光地価格で単価は都内と同等かそれ以上になることもあり、食料品費の抑制幅を上回る外食費の増加によって、食費は増加してしまいました。
3. 気候と車がもたらす「外出の壁」
Aさんが住んでいたエリアでは、生活に車が必須。維持費は想定内だったものの、冬場の雪道が大きな壁となりました。スタッドレスタイヤへの交換や、外出前の準備は、慣れないAさん夫婦にとって大きな負担に。車に乗り込むまでの雪道も転んでしまいそうで、足を踏み出すことが怖く、慣れないAさん夫婦にとって外出のハードルは高くなりました。夏場は楽しめた散策やアクティビティも、冬になると気候に行動を制限され、ストレスが積み重なっていきます。