親の介護は、もはや「突然訪れるもの」ではなく「いつか必ず訪れるもの」として、自身のライフプランに組み込むべき時代になりました。その時、安易に「介護離職」の道を選ぶか、それとも制度や親の資産を賢く活用し、自身のキャリアと両立する道を選ぶかで、あなたの生涯収入や老後資金は大きく変わります。本記事では、Aさんの事例とともに、介護とライフプラン両立のポイントについてFPオフィスツクル代表・内田英子氏が解説します。
時間と若さを返して…61歳おひとり様女性、二人三脚で生きた「年金11万円の亡母」の通帳を握り締め、後悔と恨みに沈むワケ【FPの助言】
遺品整理で判明する驚きの事実
親を看取ったあとに訪れる「遺品整理」。そこには、アルバムなど思い出の品と並んで、時に故人の知られざる一面が潜んでいます。なかには古い預金通帳がみつかることも。自分名義の口座に、知らないうちに積み立てられていたお金が残っていた、といったケースも耳にします。それは、愛情の証ともいえますが、場合によっては複雑な感情を呼び起こすことになるようです。
知らされなかった「貯金」
Aさん(61歳)は地方都市に暮らすおひとり様です。幼いころに父を亡くし、母と二人三脚で生きてきました。
大学卒業後は都内で働いていましたが、母が要介護となったことで、仕事を辞めて実家に戻ることに。生前の母親の財産は月11万円の年金と持ち家、約150万円の貯金だけ。後半は長く入院しており、そのあいだは費用がかさみましたが、Aさんの支えもあって在宅介護の期間を長く確保できたため、母親の貯蓄からの取り崩しは最低限にとどめることができました。
しかし、介護のために退職したAさんの生活費までは賄えず、彼女自身は約7年間貯蓄を取り崩しての暮らし。自身のこれから先の生活に対し、ずっと不安を抱えていました。
葬儀が終わり数ヵ月たち、遺品整理をしていたとき、タンスの奥から出てきたのは、Aさん名義の古い通帳でした。母親からは存在を一度も聞いたことがなかったため、驚きつつ、内容を確認します。するとそこには500万円の残高が。
思いもかけない金額にAさんは戸惑いました。詳しくみてみると、入金は祖父の相続時期と重なっているようです。
「母が私のために残してくれたお金かもしれない」そう感じながらも、Aさんの心には悔しさが募りました。
母の死後、Aさんは少しずつ職探しも始めていました。しかし長年の介護で足腰を痛め、健康に不安を抱えています。
「このお金があると知っていたら、仕事をやめず体を悪くしないで済んだかもしれない」そう考えると、悔しさと悲しみがこみ上げました。
「なぜ、生きているうちに教えてくれなかったの」「時間と若さを返して……」
母のそばに長く居られたと思えば、となんとか納得しようとしても、溢れ出すモヤモヤは収まることを知りません。Aさんは、通帳を握り締めたまま、その場に崩れ落ちました。