「会話はできるのに、片付けができない」「なにを聞いても『どうでもいい』という」――。独居の親にみられるこうした変化を目の当たりにすると、真っ先に疑うのは認知症かもしれません。しかし原因は、認知症に限らないこともあって……。本記事では、Aさんの事例とともに親の老いへの備え方について、FPオフィスツクル代表・内田英子氏が解説します。
「認知症じゃなかったの…」42歳娘、涙。ゴミ屋敷と化した実家に引きこもる、“もともと社交的だった”年金生活・69歳父の真相【FPの助言】
「お父さん、家の中どうなってるの…?」
Aさん(42歳)の父は若いころ、人付き合いも多く、仕事仲間との交流を生きがいに、管理職として忙しく働いていました。現役時代の生活は“仕事中心”。しかし、65歳でリタイアしたあとは多くのつながりが切れ、父が70歳を目前に控えた現在となっては、会話の相手は母やAさん以外にほとんどいなくなってしまったようです。
そのようななか、母が持病の悪化により、入院することに。1ヵ月経ち、Aさんは母のお見舞いにはこまめに行っていたものの、実家に帰ってくるのは久しぶり。玄関を開けた瞬間、かび臭いにおいがして、思わず足を止めました。
玄関は一見すっきりしています。ですが、居間にはゴミ箱から溢れ出したゴミが散乱。キッチンも分別されていないままの汚れたスーパーのパックの容器や割り箸、ペットボトルやお酒の空き缶などで埋め尽くされ、ガスコンロの上まで塞がっている状態でした。かろうじて洗濯は回している様子でしたが、取り込んだ洗濯物は廊下に放置されたまま。埃をかぶって、しわしわになっているものも目立ちました。
「……お父さん、これじゃゴミ屋敷じゃない……。ちょっと、どうしたの?」
振り向いた父は髪が乱れ、表情には元気がありません。仕事を生きがいにしていた姿とは、まるで別人のようでした。
Aさんの頭には真っ先に「認知症」という言葉がよぎります。
「認知症にしては、ちょっと違う」娘が感じた違和感
しかし、話してみると日付や記憶も問題なく、計算もスムーズで会話も成立します。「認知症じゃなかったの……?」 Aさんは戸惑いました。
「お金に困ってるの? 買い物に行けないならヘルパーさんを頼もうか?」 Aさんがそう尋ねると、父は力なく首を横に振りました。
「心配ないよ。退職金も手つかずだし、年金も母さんと合わせて月28万円入ってくる。金には困ってない」
金銭的な不安はないはずの父。しかし、続けてこう漏らします。
「別に外に出たいと思わんのよ」「なにを食べたいって聞かれても、……特にない」「片づけなきゃとは思うんだけどねえ……」と気力の落ちたような言葉ばかり。