FPから助言…家族の未来を守る「対話」と「確認」を

「夫が亡くなってから、あの子のためだけに必死で働いてきたのに…。『投資が忙しいから無理』ですって。もう、堪忍袋の緒が切れたんです」

涙ながらに語るAさんに対し、FPは深く頷き、「お気持ち、痛いほどわかります。ですがAさん、感情的になったままでは、残念ながら状況は悪化する一方です。いまはお辛いでしょうが、憎しみと家計の問題は、一度切り離して考えなくてはなりません」感情を受け止めました。 

FPの助言は、冷静かつ現実的なものでした「いま、お2人がすべきことは、まず『まず現実を数字で共有すること』です」。

憎しみのあまり息子の顔もみたくなかったAさんですが、自らの破綻を防ぐため、「責める」よりも「共有する」ことを選びました。家計の現状と将来の見通しを一緒に紙に書き出したのです。

数字が目にみえると、息子の表情にも変化が。毎月の“全負担”は難しくても、ボーナス時の繰上返済や、固定費の見直し分をローンに回すなど、少しずつ現実的な落としどころを模索しはじめました。

一度憎しみを抱くほどに食い違ったからといって、親子関係を終わらせるのが難しいのも現実です。「契約の読み合わせ」「家計の見える化」「役割の言語化」という3つの冷静な行動が、最悪の事態を避けるためには不可欠でしょう。こうした小さな行動が、すれ違いを少しずつなくし、対話の積み重ねへと導きます。

親子リレーローンは、うまく使えば世代を超えて住まいを守る仕組みになります。しかし、仕組みそのものよりも大切なのは、「家族それぞれの人生設計とどう折り合うか」を考えること。住宅ローンは単なる“お金の契約”ではなく、“住まいを固定し、生き方に影響を与える約束”でもあります。

また、近年は法改正によって、晩年でも賃貸に住みやすい環境が整いつつあり、場合によっては賃貸のほうが「家族はいるが頼れない」という「老後の孤立」を防げる可能性もあります。

親子といえども生活習慣や価値観はまったく異なり、同じ屋根の下に暮らすことが安心につながるとは限りません。暮らしの安定を図るために、必ずしも多額のローンを組んでまで持ち家を購入する必要性は、以前より低くなっています。

家を買うことは、未来の暮らし方の選択肢を狭めることでもあります。「安心のために買ったはずの家」が、後で重荷にならないように。契約の前にしっかりと話し合い、お互いの思いと計画を確かめ合うことがなにより大切です。

家族の絆を守るのは、制度ではなく「対話の積み重ね」なのです。

内田 英子
FPオフィスツクル代表