親子が離れて暮らすうちに、親と他人が親しくなり、身内同然の付き合いになる――。そんなケースは決して稀なことではありません。その中で、金銭の問題が発生するケースも考えられます。そこで今回は、高齢の母親と離れて暮らす息子の事例から、親子の話し合いの重要性をCFPの松田聡子氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
「あなた、誰ですか…?」久々に帰省した55歳息子、まさかの事態に唖然。〈年金月10万円〉〈貯蓄3,000万円〉独居暮らしの80歳母に寄り添う「見知らぬ女性」の正体【FPの助言】
智之さんは何を間違えたのか──「こうすべきだった」という視点から
智之さんの最大の問題は、高齢の母への無関心でした。年に一度帰省するかしないか、電話もたまにする程度。母が誰に世話になっているのか、日常生活でどんな困りごとがあるのか、関心を持ちませんでした。
交際相手との関係を優先し、母のことは後回し。結局、交際相手とは別れ、母との関係も修復しないまま時が過ぎました。自分のことしか考えず、80代の母が一人で暮らす不安や孤独に目を向けなかったのです。
もし智之さんが潤子さんの日常に関心を持ち、定期的に連絡を取り、帰省を増やしていたら、渡辺さんへの依存も、謝礼の支払いも防げたかもしれません。
謝礼について、潤子さんの判断能力が弱まっていて金額が過剰になっていたとしたら――。智之さんがそんな疑いを持ったとしても、もはや確認する術もありません。
少なくとも潤子さんと智之さんは、智之さんの父が亡くなった時点で、潤子さんに判断能力がなくなったときの財産管理について話し合っておくべきだったと思われます。高齢になれば、誰でも判断能力が低下する可能性があります。その場合の潤子さんの希望を聞き、必要に応じて任意後見や家族信託について検討すべきでした。
これらの話し合いをしていたら、その過程で潤子さんの生活ぶりがわかり、渡辺さんとの付き合いも把握できたはずです。
智之さんのような後悔をしないためには、まずは親の日常に関心を持ち、定期的に連絡を取り、帰省を増やすことが大切です。そして、親が元気なうちに、判断能力が低下したときの備えなどについて話し合いましょう。 通帳を一緒に見る、将来の希望を話し合うといった地道な関わりが、トラブル防止につながります。
松田聡子
CFP®