「大企業勤めじゃないから」と節約生活…お金の不安がつきまとう人生

“老後資金2,000万円問題”が話題になって以降、「年金だけでは暮らせない」「老後資金はいくらあれば足りるのか」、ネットや雑誌では2,000万円、3,000万円、最近では物価高の影響を受けて「1億円あっても足りない」という数字や言葉が飛び交っています。そして、実際にその目標額を達成してもなお「足りない」と感じる人が少なくありません。

田中さん(仮名・68歳)もその一人です。65歳で完全にリタイアしてから3年、夫婦二人で暮らす田中さんの貯蓄額はおよそ7,000万円。数字だけ見れば老後資金として十分で、不安とは無縁のように思えます。

しかし、「物価が上がっているし、いつ病気になるかわからない。このお金で本当に足りるのか、不安で仕方ないんです」と、田中さんには常にお金の不安がつきまとっています。

田中さんは現役時代、中堅の製造会社に勤めていたため、給与水準は決して高くありませんでした。堅実で真面目な性格から上司や部下からの信頼も厚かった田中さんですが、昇進や昇給のペースもゆるやかで、定年前の年収は700万円ほどでした。

「老後のためには自分で何とかするしかない」と、お金を貯めるために節約を重ねてきた田中さん。昼食はほぼ毎日妻の手作り弁当、趣味にお金をかけることもなく、ボーナスはすべて貯蓄や住宅ローンの繰り上げ返済に回してきました。

妻が「たまには家族旅行に行きたいわね」と言っても、「子どもの学費と老後のため」と我慢。行ったとしても、近県の温泉1泊旅行がせいぜいでした。

振り返ると、将来の不安を理由に“いま”我慢する日々でした。大企業に勤める同級生が「退職金は3,000万円だった」と話しているのを聞いてうらやましく思うことも。それでも、「自分はその半分くらいしかもらえない。だからこそ働けるうちは働いて、貯めていくしかない」と、定年後も同じ職場で再雇用として65歳まで働き続けました。

再雇用後は給与が下がった分、田中さんはより一層倹約に努める生活を送るようになったのです。