親子が離れて暮らすうちに、親と他人が親しくなり、身内同然の付き合いになる――。そんなケースは決して稀なことではありません。その中で、金銭の問題が発生するケースも考えられます。そこで今回は、高齢の母親と離れて暮らす息子の事例から、親子の話し合いの重要性をCFPの松田聡子氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
「あなた、誰ですか…?」久々に帰省した55歳息子、まさかの事態に唖然。〈年金月10万円〉〈貯蓄3,000万円〉独居暮らしの80歳母に寄り添う「見知らぬ女性」の正体【FPの助言】
母が死去…通帳から消えた700万円の行方
その後も、智之さんは潤子さんと疎遠でした。交際していた女性が老いた母親との関わりを嫌がっていたこともあり、以前よりもいっそう実家とは距離を置くようになっていたのです。
とはいえ、高齢の母の様子がまったく気にならないわけではありません。毎年年始の1回、電話だけはかけていました。その時には、「週に2、3回、渡辺さんが買い物や通院に付き添ってくれ、話し相手にもなってくれるから大丈夫」と潤子さんから聞いていた智之さん。お礼の話は特に出ませんでした。
智之さんはやがて交際していた女性と破局。それからしばらくして、潤子さんは85歳で静かに息を引き取りました。
智之さんが潤子さんの通帳を見たのは、葬儀が終わった後のことでした。貯金残高は約2,000万円。母の生前、最後に確認したときには3,000万円ほどあったはずが、1,000万円も減っています。
過去の取引履歴を見ても、生活費の出金は月10万円から15万円程度。年金が10万円なので、不足分は年間60万円程度、5年で300万円ほどです。つまり、残りの700万円がどこかに消えてしまったことになります。
「母さんが使ったのか? いや、大きなものを買った形跡はない。まさか……」
智之さんの脳裏に、渡辺さんの顔が浮かびました。葬儀にも来てくれて挨拶とこれまでのお礼は伝えましたが、それ以上の話はしていません。しかし、以前「都度お金を渡す」と言っていた母の言葉。けれども、通帳には明確な記録はなく、確証はつかめません。