出世欲も存在感もなし…54歳平社員の「平穏な日常」

大竹亘さん(仮名・54歳)は、東京都内の中堅メーカーに勤める会社員。独身で、都内の賃貸マンションにひとり暮らし。年収は600万円です。

彼のルーティーンはだいたいこんな感じです。朝は8時30分の始業時間より少し早く出社。経済新聞に目を通した後は、品質関連資料や社内文書のチェック、社内報の校正など、期限に追われないデスクワークを淡々とこなします。午後5時30分の定時を迎える否や、速やかに退社。有給休暇もきっちり使い切っています。

「大竹さんって、あの年で役職もないのにむなしくないんですかね」
「窓際ってやつですよね」

若手社員がそう囁いているのを、亘さんは知っています。それでも心は波立ちません。

「なんとでもいえばいい」

そう思えるようになるまでには、長い道のりがありました。

30代でパワハラ被害――「いつか辞めてやる」から“資産1億円”へ

30代半ばごろ、亘さんは別の部署で上司から執拗なパワハラを受けていました。会議のたびに人格を否定され、深夜までの残業を強いられる日々。

「いつか必ずこの会社を辞めてやる」――。そう心に決めた亘さんは生活費を切り詰め、給与から毎月20万円、ボーナス全額をインデックスファンドへの投資に回すことにしました。幸い相場の追い風もあって資産は順調に育っていきました。それを励みに、亘さんはパワハラに耐え抜いてきたのです。

そして50歳を過ぎ、組織再編に伴う配置転換で亘さんは現在の部署へ。周囲は左遷と噂しましたが、亘さんにとっては、あのパワハラ上司と縁が切れた瞬間でもありました。

気づけば、資産は6,000万円を超えていました。

「パワハラ上司とおさらばできたし、もうひと踏ん張りだ。1億円できたら会社を辞めてもいいかな」

大きなストレスから解放された亘さんは、生活や投資のペースは変えず、今に至っています。資産は株式市場の活況によってさらに膨らみ、とうとう1億円を達成しました。

FIRE(経済的自立と早期リタイア)でよく知られる「4%ルール」に当てはめれば、年間の運用益は約400万円。あくまで目安ではありますが、節約を心がければ明日会社を辞めても生活していける計算です。

「いつか辞めてやる」――それを原動力にしてきたはずの亘さん。ですが、今はもう辞めようとは考えていないといいます。それは、会社員でいることのメリットに気づいたからです。