世間的にも離婚に対する抵抗感は薄くなりつつあるものの、離婚は結婚の何倍もの労力が必要と聞きます。人の気持ちほどやっかいなものはなく、一度こじれてしまうと長い間、負の感情をかかえたまま苦しい結婚生活となってしまうこともあるようです。そこでもめるのが「財産分与」の問題。今回は熟年離婚にいたったある夫婦の事例をもとに、離婚する夫婦の金銭事情のリアルをみていきましょう。山﨑裕佳子CFPが解説します。
母さんの自業自得だよ…「自宅」と「現金1,000万円」を勝ち取って離婚した54歳・専業主婦、自由と引き換えに失った“大きすぎる代償”に呆然【CFPの助言】
離婚を断固拒否していた清美さんが一転、素直に応じた理由
「はあ? どの口が言ってるわけ? アンタにそんな権利はないって昔から言っているじゃない!」
則正さんから離婚を切り出された清美さんは当初、血相を変えて猛反発しました。
ただ、則正さんは「もう、十分償っただろ。君の僕に対するこれまでの暴言はモラハラに値するよ、こちらから慰謝料を請求したくらいだ」と冷静に対応。
そして「君に必要なのはお金だけだろ? それなら財産分与できちんと分けるから」と落としどころを提案しました。
すると、清美さんは一転して態度を軟化させます。
「そうね、たしかにこの先、お互いいがみ合って生きていくのは疲れるかも」
そして、清美さんは「こうなったのは全部、アンタが悪いのよ! 財産はきっちりいただきますから」と念を押して離婚を承諾したのでした。
前園夫妻の資産状況…離婚後の財産分与はどうする?
前園夫妻の資産は、時価4,000万円の自宅不動産と2,000万円の預金です。負債はありません。
則正さんは、清美さんが離婚に応じてくれるのであれば、専業主婦のため働いていない清美さんにできるだけのことはしようと考えていました。そのため清美さんの要求どおり、自宅と預金の半分1,000万円を分与することで合意します。
子どもたちの反応
前園家の2人の息子は、父である則正さんの決断に理解を示してくれました。むしろ、「父さん、よくいままで我慢したよな」という反応だったそうです。
則正さんは離婚後、職場近くの2LDK賃貸マンションに引っ越しました。家賃は10万円です。時々、長男が孫を連れて遊びに来てくれると嬉しそうに話します。
則正さんの勤め先の定年は65歳です。さらに、希望すれば70歳まで再雇用制度を利用して働くことができるといいます。退職金は約1,800万円の予定ですが、働いている間は、退職金には手を付けずに生活ができるでしょう。
65歳から受給できる年金額は月額19万円ですが、自宅を失った分、老後の収入を少しでも増やすため、働いている間は年金の繰下げ受給を検討しているということでした。