急増する老人ホーム利用者

かつては「家族の責任」という暗黙の了解があった介護。しかし、近年は老人ホームやデイサービスなど、第三者の力を借りて介護を行うスタイルが一般的になっています。

厚生労働省「有料老人ホームの現状と課題・論点について」によると、平成22(2010)年に約140万人だった老人ホームの利用者は、令和4(2022)年には約230万人となりました。約10年で90万人ほど増加しており、これは、介護が必要な高齢者のおよそ3分の1が施設へ入居している状況です。

しかし、「老人ホーム」とひと口にいっても、サービス内容から入居にかかる条件にいたるまで、さまざまな種類があります。

“終の棲家”としての施設選びを誤ると、思わぬ悲劇に見舞われるかもしれません。

心身ともに元気だが…長男の勧めで老人ホームに入居

加藤さん(仮名・76歳)は、郊外の戸建てに1人で暮らしています。

現役時代は公務員だった加藤さん、65歳からは月あたり約20万円の年金とまとまった貯蓄で、穏やかな老後を過ごしてきました。現在も4,000万円ほどの貯蓄があります。

そんな加藤さんは数年前、最愛の妻を亡くしていました。それからは、離れて暮らす子どもたちが定期的に様子を見に来てくれています。加藤さんはそんな子どもたちに感謝しながらも、「俺はまだ健康だし、自分のことは自分でなんとかしないと」と、慣れない家事に奮闘していました。

しかし、年を重ねるにつれ体力も衰え、一つひとつの動作にも時間がかかるように。75歳を迎え「後期高齢者」の仲間入りをしたある日のこと。長男から次のように打診がありました。

「父さんもいい年齢になって、1人で生活するのは大変だろう。そろそろ楽をしてもいいんじゃないかな。最近、近くに綺麗な施設ができたみたいだし、見に行ってみたら?」

ちょうど「終活」に興味を持っていた加藤さんは、長男の勧めを受けてその施設を見学に行くことにしました。