超高齢社会の進行にともない、有料老人ホームの施設数も増加。「介護は家族がやるもの」というかつての常識は薄れ、介護施設の利用者も増えています。しかし、施設選びを誤ると、思わぬ悲劇に見舞われることも……。76歳男性の事例をもとに、老人ホーム選びの注意点をみていきましょう。介護施設での勤務経験もある株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが解説します。
施設長「申し訳ありませんが」…年金月20万円・貯金4,000万円の76歳元公務員男性が、老人ホーム入居後わずか1年で〈退去勧告〉を受けたワケ【FPの助言】
急増する老人ホーム利用者
かつては「家族の責任」という暗黙の了解があった介護。しかし、近年は老人ホームやデイサービスなど、第三者の力を借りて介護を行うスタイルが一般的になっています。
厚生労働省「有料老人ホームの現状と課題・論点について」によると、平成22(2010)年に約140万人だった老人ホームの利用者は、令和4(2022)年には約230万人となりました。約10年で90万人ほど増加しており、これは、介護が必要な高齢者のおよそ3分の1が施設へ入居している状況です。
しかし、「老人ホーム」とひと口にいっても、サービス内容から入居にかかる条件にいたるまで、さまざまな種類があります。
“終の棲家”としての施設選びを誤ると、思わぬ悲劇に見舞われるかもしれません。
心身ともに元気だが…長男の勧めで老人ホームに入居
加藤さん(仮名・76歳)は、郊外の戸建てに1人で暮らしています。
現役時代は公務員だった加藤さん、65歳からは月あたり約20万円の年金とまとまった貯蓄で、穏やかな老後を過ごしてきました。現在も4,000万円ほどの貯蓄があります。
そんな加藤さんは数年前、最愛の妻を亡くしていました。それからは、離れて暮らす子どもたちが定期的に様子を見に来てくれています。加藤さんはそんな子どもたちに感謝しながらも、「俺はまだ健康だし、自分のことは自分でなんとかしないと」と、慣れない家事に奮闘していました。
しかし、年を重ねるにつれ体力も衰え、一つひとつの動作にも時間がかかるように。75歳を迎え「後期高齢者」の仲間入りをしたある日のこと。長男から次のように打診がありました。
「父さんもいい年齢になって、1人で生活するのは大変だろう。そろそろ楽をしてもいいんじゃないかな。最近、近くに綺麗な施設ができたみたいだし、見に行ってみたら?」
ちょうど「終活」に興味を持っていた加藤さんは、長男の勧めを受けてその施設を見学に行くことにしました。