超高齢社会の進行にともない、有料老人ホームの施設数も増加。「介護は家族がやるもの」というかつての常識は薄れ、介護施設の利用者も増えています。しかし、施設選びを誤ると、思わぬ悲劇に見舞われることも……。76歳男性の事例をもとに、老人ホーム選びの注意点をみていきましょう。介護施設での勤務経験もある株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが解説します。
施設長「申し訳ありませんが」…年金月20万円・貯金4,000万円の76歳元公務員男性が、老人ホーム入居後わずか1年で〈退去勧告〉を受けたワケ【FPの助言】
加藤さんが驚いた「イメージと違いすぎる」老人ホームの実態
豪華な設備に魅せられ入居を“即決”
あまり期待していなかった加藤さんですが、職員の案内で施設を見学してびっくり。
居室がきれいなことはもちろん、カラオケルームに遊戯室、屋上テラスと、老人ホームとは思えないほど設備が充実しています。
「ここなら楽しく余生を送れそうだ」
加藤さんは、その場で入居を決断。長男も、父の“終の棲家”が決まったことで胸をなで下ろしました。
1年後…施設長からの「突然の退去勧告」にあ然
それからも、たびたび父の様子を見に行っていた長男。だんだんと他の入居者とも打ち解け、生活に問題はなさそうです。
しかし、入居から1年ほど経ったある日、仕事が多忙だったことから久しぶりに父の様子を見に来た長男は、施設長から声をかけられました。
「すみません、ちょっとよろしいですか?」
席につくと、施設長は顔を曇らせながら言いました。
「申し訳ありませんが……、お父さまには、施設を退去していただかなければなりません」
「えっ? どういうことですか?」
衝撃の宣告にたじろいでいると、施設長はその理由について、次のように説明しました。
「当施設では認知症の高齢者に対する介護サービスがなく、介護が必要になると施設を出ていかなければならないんです。スタッフの報告を受けて様子を確認させていただいたところ、お父さまには初期の認知症の疑いがあります」
パッと見変化はないものの、たしかにその日声をかけた際、目の前の人物が長男であることを認識するまでに少し時間がかかっていた加藤さん。しかし、長男は「久しぶりに来たんだから、そんなこともあるか」とあまり気に留めていませんでした。
「突然そんなこと言われても……高い金額を払っているんだから、なんとかなりませんか!?」
長男は必死に訴えますが、「申し訳ありません。こちらの施設は『健康型有料老人ホーム』ですので」とピシャリ。施設長から、診断のうえ認知症が確認された場合は次の入居先を探すように言われ、長男は途方に暮れてしまいました。