国土交通省の調査(2023年)によると、コロナ禍以降、東京圏在住者の地方移住への関心が高まっています。しかし、夢だけを抱いて地方移住を叶えると、思わぬ現実に直面することも……。某県に庭付き一軒家を購入した60代夫婦の事例をもとに、「地方移住」に潜む落とし穴と、トラブルを防ぐための予防策をみていきましょう。
お前には見られたくなかったな…定年後〈地方の庭付き一軒家〉に移住した年金暮らしの60代両親、半年後に訪ねた息子が目にした「信じがたい光景」
念願の「地方移住」を叶えた60代夫婦の誤算
「やっと夢が叶うよ」
――父の宏司さん(61歳)は、そう言って満面の笑みを浮かべました。
宏司さんは去年サラリーマン生活を終え、東京郊外に所有していたマンションを売却。そして、現役時代から夢見ていた「地方移住」を叶えるため、自然豊かな某県に庭付き一軒家を購入したのです。
また妻の里子さん(仮名・62歳)も、趣味の家庭菜園や道の駅めぐり、ご近所同士の和気あいあいとした付き合いなど、地方でのマイペースな暮らしに憧れていました。
住居の引き渡しが終わり、移住先で第2の人生をスタートさせたふたり。宏司さんは釣りや登山、里子さんは家庭菜園と思い思いに趣味を楽しみ、日が暮れてきたら地元の食材を使って晩御飯。憧れの暮らしに、笑顔の絶えない夫婦でした。しかし……。
半年後、息子が目にした「信じがたい光景」
それから半年後、息子の昇太さん(仮名・35歳)が両親を訪ねると、そこには信じがたい光景が広がっていました。
玄関の前に立つと、かつて両親が誇らしげに語っていた“自慢の庭”は雑草で覆われ、どこか寂しげな雰囲気を漂わせています。
呼び鈴を押してもすぐには反応がなく、ようやくドアを開けた母はやつれた表情をしていました。
「母さん、庭はどうしたの?」と昇太さんが尋ねると、「もう、手入れが追いつかなくなっちゃってね……」と母は視線を落としたまま小さく答えました。
さらに、家のなかは庭以上に荒れ果てています。
廊下は通販の段ボールがびっしり並び、冷蔵庫のなかは賞味期限切れの食品だらけ。
「スーパーが近くになくて、まとめ買いしているの」と母は言いますが、管理が追いついていない様子です。
話を聞くと、ご近所づきあいにも苦労しているようでした。
「こっちは思っていたより“よそ者”に厳しいのよ。『ゴミ出しのルールが違う』『地域行事の草刈りに参加しないなんてありえない』って……。最初は仲良くなろうと頑張っていたんだけど、だんだん疲れちゃって」
一方の父も地域に馴染めず、家でテレビを見て過ごす日々です。
「酒を飲む仲間もいないし、街の中心地までは車で30分近くかかる。家の周りにコンビニもないし、不便で仕方ない」
「お前には見られたくなかったな……」
父がそうつぶやいたとき、昇太さんは胸が締め付けられるような思いがしました。