老後の生活を支える大切な公的年金。しかし、その制度は複雑で、家族構成や働き方の変化によって受給額が変動することがあります。自分は大丈夫だという思い込みが、ある日突然「年金が減った」という事態を招くかもしれません。「知らなかった」では済まされない、年金制度に潜む思わぬ落とし穴について解説します。
ある日、年金が年40万円消えた…高齢夫婦が年金事務所で青ざめた「加給年金終了」という残酷な現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

知らなかったでは済まされない、年金制度の落とし穴

「きちんと確認しろ、と言われればそのとおり。しかし、給与明細、毎回確認して、保険料や税金やいくら引かれているか、きちんと把握しているやつなんて、いないだろう? 年金だってそう。一度受け取り始めたら、大体これくらいもらえるんだ、と確認しなくなるのさ」

 

正一さん夫婦のように、通知が届いてもきちんと確認しなかったり、意味を正しく理解していなかったりしたために、あるとき「年金が減った!」と慌てるケースは、決して珍しくありません。老後の生活設計を揺るがしかねない「年金減額」。2つのポイントをみていきましょう。

 

年金減額のポイント①「加給年金の終了」

加給年金は、厚生年金の被保険者期間が原則20年以上ある方が65歳になった時点で、その人に生計を維持されている65歳未満の配偶者、または子がいる場合に支給されます。2025年度の支給額は配偶者と1人目・2人目の子については各239,300円で、3人目以降の子は各79,800円。さらに配偶者の加給年金の額には、老齢厚生年金を受けている方の生年月日に応じて、35,400円から176,600円が特別加算されます。

 

この加給年金は、配偶者が65歳になると打ち切られます。その際、事前に「年金額改定通知書」が届きますが、その意味を理解しておかないと、収入が突然減ったように感じてしまうのです。

 

なお、加給年金が打ち切られる代わりに、今度は妻の老齢基礎年金に「振替加算」という形で一部が上乗せされる仕組みがありますが、多くの場合、加給年金の額を大きく下回るため、結果として世帯収入は減少します。

 

年金減額のポイント②「在職老齢年金」、働き損になる境界線

「年金の足しに」と、定年後も仕事を続ける人は少なくありません。しかし、ここにも注意すべき「働き損」の境界線が存在します。それが在職老齢年金の仕組みです。65歳以上の方が厚生年金に加入しながら働いて収入を得る場合、年金の基本月額と、給与や賞与を12で割った「総報酬月額相当額」の合計が51万円(2025年度時点)を超えると、超えた金額の2分の1が年金から支給停止されてしまうのです。良かれと思って始めた仕事が、かえって年金を減らしてしまう――そんな皮肉な事態を招かないためにも、働く前に収入と年金のバランスを計算しておく必要があります。

 

では、こうした「知らなかった」「理解していなかった」という事態を避けるために、何をすべきか。簡単なのは毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」と、いつでも自分の年金記録を確認できるウェブサイト「ねんきんネット」を活用することです。これらを確認すれば、将来受け取る年金の見込み額はもちろん、自分が加給年金の対象となりうるかどうかも事前に把握することができます。

 

また、役所から届く通知物は、たとえ内容が難しく感じても必ず目を通し、分からないことは放置しない癖をつけることが大切です。年金は、国が自動的に計算して振り込んでくれるもの、という受け身の姿勢では、いつの間にか損をしてしまう可能性があります。自分の老後を守るために、自ら情報を集め、理解しようと行動することが何よりも重要です。

 

[参考資料]
日本年金機構『加給年金額と振替加算』『在職中の年金』