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安定した公務員夫婦への「親からの助言」
東北地方の県立高校で教諭として働くコウイチさん(44歳)と同い年で別の県立高校に勤める妻は、一人息子を育てる共働き世帯です。年収はそれぞれ650万円、貯蓄は1,000万円台。
現在は、戸建て賃貸で暮らしています。家賃は10万5,000円ですが、住宅手当のおかげで実質負担は8万円台。職場にも近く、書斎も確保できる広々とした住まいに、夫妻は「一生賃貸でもいい」とすら考えていました。そんな二人の心に波風を立てたのが、コウイチさんの父(69歳)の言葉でした。
「家を買うには、年齢的にいまが最後のチャンスだぞ。家を持ってこそ一人前。家を持っていないなんて世間体も悪い。それに、孫のためにも資産を遺してやるべきだ」
コウイチさんは「いまは無理にローンを組む時代じゃない。賃貸のほうが身軽だし、維持費もかからない」と反論しましたが、父には、高度経済成長の終わりからバブル期にかけて、低賃金と高金利に耐えながら必死に働き、家一軒を建てたという強烈な自負があります。父にとって家は単なる建物ではなく、「家族を守り抜き、社会に認められた証」そのものだったのです。父の話を受け、コウイチさんは、期待に応えるべきなのか、と住宅購入に前向きな姿勢をみせました。
「6,000万円の家」は老後の資産か、負債か
二人が希望する条件で新築を検討すると、土地と建物で約6,000万円という見積もりが出ました。公務員としての信用と潤沢な退職金見込みがあれば、キャッシュフロー上は問題なく完済可能です。
しかし、コウイチさんが住宅購入について調べていくなかで、冷静に考えたのは「完済したあとの家の価値」でした。35年後の2061年、この街の人口は半分近くに減っています。そのとき、築35年の家を売却しようとしても、買い手がつかない可能性が極めて高いのです。
「もし息子が都会に出たら、人口が激減したこの街の古い家を相続させることは、ただの迷惑になるのではないか」固定資産税や維持費だけがかかり続け、処分もできない「負の遺産」を息子に押し付ける未来。そのリアリティを直視したとき、コウイチさんの決意は揺らぎました。