内閣府「高齢社会白書」によると、7割以上の高齢者が「自宅で介護を受けたい」と答えました。介護施設に対する独特な雰囲気のイメージからか、まだまだ自宅介護を望む人が多いようです。ただし、自分の都合だけを考えると、家族関係に致命的な亀裂を生んでしまう危険性があります。介護施設での勤務経験もある株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが、とある親子の事例をもとに解説します。
父さんを見捨てるのか?…年金月17万円の80歳男性、55歳長女から「特養入居」を打診されるも拒否→1年後、娘に心から謝罪したワケ【FPの助言】
要介護も「施設には入りたくない」とゴネる80歳男性
月約17万円の年金で暮らす吉岡茂さん(仮名・80歳)は、自宅で転倒したことをきっかけに介護が必要となりました。そこで、近くに住んでいた未婚の長女・明子さん(仮名・55歳)に自身の介護を依頼します。
当初、明子さんは働きながら介護に通うのは難しいと、父に特別養護老人ホーム(特養)への入居を提案しました。
しかし、茂さんは「父さんを見捨てるのか……?」とこれを拒否します。
明子さんは寂しそうな父の声と表情に罪悪感を抱き、仕方なく在宅での介護を決断したのでした。
最初は有休や介護休暇を利用しながら、なんとか仕事と介護を両立させようと頑張っていた明子さん。しかし、徐々に心身が疲弊していきます。少しでも自身の負担を減らそうと、ヘルパーやデイサービスの利用を提案するも、茂さんは「他人に世話されたくない」と頑なです。明子さんは睡眠不足とストレスで体調を崩しつつも、父を支えるため奮闘し続けます。
そんな生活が1年ほど続いたある日、明子さんは過労で倒れて入院することになりました。
これまで介護のために有休を消化していたにもかかわらず、さらに長期間の休養を余儀なくされた明子さん。
「これ以上自分がいても会社に迷惑をかけるだけでは……」との思いに苛まれた結果、断腸の思いで退職を決意しました。
上司からは「介護サービスを利用すれば退職しなくてもいいんじゃないか?」と慰留されましたが、茂さんが他人の介護を頑なに拒むためそれもかないません。
父親のひと言で我慢の限界に
退職後、実家へと戻った明子さん。茂さんは「また娘と一緒に暮らせる」と大喜びです。
数ヵ月は献身的に介護していた明子さんでしたが、社会とは隔絶され、また貯金を切り崩す生活が続くなか、徐々に精神がすり減っていきました。
そしてついに、明子さんは我慢の限界を迎えます。
洗濯物を干しに外へ出ていた明子さんに対して、何度も「お~い明子」と呼ぶ茂さん。
明子さんが「ちょっと待ってこれが終わってから」と告げると、茂さんが「なんのためにお前がいるんだ! 父さんの介護が最優先だろ!」と怒鳴ったのでした。