要介護も「施設には入りたくない」とゴネる80歳男性

月約17万円の年金で暮らす吉岡茂さん(仮名・80歳)は、自宅で転倒したことをきっかけに介護が必要となりました。そこで、近くに住んでいた未婚の長女・明子さん(仮名・55歳)に自身の介護を依頼します。

当初、明子さんは働きながら介護に通うのは難しいと、父に特別養護老人ホーム(特養)への入居を提案しました。

しかし、茂さんは「父さんを見捨てるのか……?」とこれを拒否します。

明子さんは寂しそうな父の声と表情に罪悪感を抱き、仕方なく在宅での介護を決断したのでした。

最初は有休や介護休暇を利用しながら、なんとか仕事と介護を両立させようと頑張っていた明子さん。しかし、徐々に心身が疲弊していきます。少しでも自身の負担を減らそうと、ヘルパーやデイサービスの利用を提案するも、茂さんは「他人に世話されたくない」と頑なです。明子さんは睡眠不足とストレスで体調を崩しつつも、父を支えるため奮闘し続けます。

そんな生活が1年ほど続いたある日、明子さんは過労で倒れて入院することになりました。

これまで介護のために有休を消化していたにもかかわらず、さらに長期間の休養を余儀なくされた明子さん。

「これ以上自分がいても会社に迷惑をかけるだけでは……」との思いに苛まれた結果、断腸の思いで退職を決意しました。

上司からは「介護サービスを利用すれば退職しなくてもいいんじゃないか?」と慰留されましたが、茂さんが他人の介護を頑なに拒むためそれもかないません。

父親のひと言で我慢の限界に

退職後、実家へと戻った明子さん。茂さんは「また娘と一緒に暮らせる」と大喜びです。

数ヵ月は献身的に介護していた明子さんでしたが、社会とは隔絶され、また貯金を切り崩す生活が続くなか、徐々に精神がすり減っていきました。

そしてついに、明子さんは我慢の限界を迎えます。

洗濯物を干しに外へ出ていた明子さんに対して、何度も「お~い明子」と呼ぶ茂さん。

明子さんが「ちょっと待ってこれが終わってから」と告げると、茂さんが「なんのためにお前がいるんだ! 父さんの介護が最優先だろ!」と怒鳴ったのでした。