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医業を営む開業医にとって、自身の健康は経営の柱です。しかし、突然の病気やケガで働けなくなった場合、クリニックの経営だけでなく、生活そのものにも大きな影響を及ぼします。公的な社会保障制度だけでは十分な補償が受けられない場合、どのような保険を選択すればいいのでしょうか。ご家族の生活費やクリニックの運転資金も含め、万が一に備える生活の保障について、具体的な対策を探ってみましょう。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

開業医(個人事業主)の公的保障について

◆公的医療保険制度の概要

日本の公的医療保険制度は、すべての国民が何らかの形で医療保険に加入する「国民皆保険制度」として運営されています。

 

個人事業主にあたる開業医の場合は、主に国民健康保険に加入します。

 

ご存じのとおり、この保険は病気やケガにかかる医療費の一部を補助するもので、基本的に3割が自己負担です。

 

開業医が患者という立場になったとしても、70歳未満であれば医療費の自己負担は3割で済みます。

 

自己負担が1ヵ月で上限額を超えた場合、その差額が支給される「高額療養費制度」も同じく保障対象です。

 

◆公的年金制度における恩恵の差

公的年金制度が、「国民年金」と「厚生年金」の二本柱で構成されていることも既知のとおりです。

 

保障としては、老後の生活を支える「老齢年金」や、亡くなった方の遺族に支給される「遺族年金」、障害状態が認定されたときに支給される「障害年金」があります。

 

会社員や公務員は厚生年金と国民年金を合わせた2階建ての恩恵を受けますが、個人事業主は国民年金のみの加入となります。

 

その恩恵の差を見てみましょう。

 

受給条件を満たした会社員や公務員は「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」を受給できますが、個人事業主は「老齢基礎年金」のみです。同様に「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の受給に対しても、「遺族基礎年金」のみとなります。

 

さらに「障害年金」の受給の差も同様です。開業医は保障の対象項目が少なく、将来受け取る年金額も少ないため、老後の生活費の確保が課題となります。

労災、傷病手当金の適用範囲について

◆公的な労災保険の適用範囲

労災(労働災害)保険は、労働者が勤務中もしくは通勤中に発生したケガや病気に対して補償を受けられる保険制度です。

 

個人事業主である開業医が経営する医療施設も、従業員に対してはこの制度が適用されます。

 

しかし、事業主自身は原則として労災保険の対象外です。

 

たとえば、診察中に発生した事故や通勤中の交通事故でケガをした場合、労災保険からの補償を受けられないため、全額自己負担となります。

 

開業医にとってこのような事態は、労働災害という身体的なダメージに加え、経済的にも大きなリスクです。

 

◆傷病手当金の対象範囲

傷病手当金は、ケガや病気で働けなくなった際に一定期間、給与の一部を補填する制度です。

 

健康保険組合や協会けんぽに加入している会社員が対象となり、条件を満たせば最長1年6ヵ月の間、平均給与の約3分の2が支給されます。

 

しかし、自営業者や個人事業主が加入する国民健康保険には、傷病手当金の制度がありません。

開業医が傷病で長期間働けなくなった場合でも、公的な補償を受ける範囲が限定されていることは懸念すべき事実です。

 

◆労災保険と傷病手当金の違い

労災保険と傷病手当金は、どちらも働けなくなった際の補償を目的としていますが、その適用範囲や給付内容に大きな違いがあります。

 

労災保険は業務中の事故やケガに対する補償保険であり、傷病手当金は業務に起因しないプライベートでのケガや病気に対する給付金です。

 

労災保険も傷病手当金も個人事業主には適用されないため、開業医が自身の健康リスクに対して備えるためには、別の対策が必要となります。

 

もしもの場合に備えて、クリニックの運転資金を確保できる手段を講じておくことも重要です。

ご家族への備えと、従業員への備え

◆家族の経済的安心への備え

万が一、開業医(個人事業主)が亡くなった場合、残された家族の生活は大きな影響を受けます。とくに一家の生計を支えていた立場であれば、その影響は深刻です。

 

国民年金に加入していると遺族基礎年金が支給されますが、その額は年額にしてわずかにとどまります。

 

こうした不足を補うために、定期保険や終身保険、収入保障保険といった生命保険が必要になります。

 

定期保険:掛け捨て型の生命保険で、保障期間が定められているため、月々の保険料は比較的安価

終身保険:一生涯保障が続く生命保険で、保険料の払込期間満了後に解約した場合、支払った保険料に見合うかそれ以上の解約返戻金を受け取ることができる

収入保障保険:被保険者が死亡または高度障害状態になった際に、毎月一定額の死亡保険金を保険期間が終わるまで年金形式で受け取れる保険。とくに、開業医のご家庭に年齢の低い子どもがいる場合は必要性が高い

 

◆従業員の健康と安全への備え

個人事業主であっても、従業員を雇用すると各種社会保険への加入が必要になる場合があります。

 

対象となる社会保険には、健康保険(介護保険を含む)、厚生年金、雇用保険、労災保険があります。

 

健康保険:一定の業種で常時5人以上の従業員を雇用している場合、保険料の半額を事業主が負担する

厚生年金:同様に、一定の業種で常時5人以上の従業員を雇用している場合、保険料の半額を事業主が負担する

雇用保険:週の労働時間が20時間以上の従業員を1人以上雇用する場合、定められた保険料を事業主が負担する

労災保険:労働時間に関係なく従業員を1人以上雇用する場合、保険料の全額を事業主が負担する

 

クリニックの従業員に対する備えも重要です。

 

従業員が病気やケガで働けなくなった場合、労災保険と傷病手当金が適用されますが、事業主がこれらの保険に加入していることが前提です。

 

従業員の健康管理や安全対策を徹底することで、労働災害の発生を防ぎ、クリニック全体の信頼性を高めることにもつながります。

民間保険の役割とその必要性

公的な保障が不十分な部分を補うためには、民間の保険に加入することが得策です。

 

とくに「医療保険」と「就業不能保険」は、突然の健康リスクに対する備えとしておすすめです。

 

◆医療保険

民間の医療保険は、手術や入院にかかる費用をカバーするための保険です。

 

高額な治療費や長期間の入院費など、公的保険だけではカバーしきれない部分を補うことで、経済的な負担が軽減されます。

 

医療保険の必要性は、医療にかかわる立場だからこそ理解しやすいのではないでしょうか。

 

◆就業不能保険

就業不能保険は、病気やケガで働けなくなった場合の収入減少を補う保険です。

 

前述のとおり、会社員であれば公的保障として傷病手当金が支給されますが、個人事業主にはそのような制度がため、就業不能保険は開業医にとって非常に有用です。

 

仮に病気で入院した場合、就業不能保険がその間の無収入を補填し、退院後の生活費も補います。

 

普段が健康状態であっても、突然の病気やケガで就業不能に陥る可能性は開業医においても例外ではありません。

 

このような不安を和らげる効力も就業不能保険に加入するメリットです。

必要な保険を選んで備えを万全に

開業医としての健康リスクに備えるためには、公的保障だけでは不十分です。

 

民間の医療保険と就業不能保険が、病気やケガで働けなくなったときの経済的な不安を軽減し、家族の生活を支える助けとなります。

 

安心してクリニックを運営するためにも、必要な保険を今一度見直し、備えを万全にしておきましょう。

 

 

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