会議前の「ド忘れ」、プレゼン中の「言葉の詰まり」。それは、単なる疲労や二日酔いのせいではありません。あなたの脳で静かに始まっている恐ろしい病気のサインであり、キャリアを失いかねない「若年性認知症」の入り口です。本記事では、幸町歯科口腔外科医院院長の宮本日出氏が、最新研究をもとに「脳の老化」と「口腔ケア」の密接な関係を解き明かします。
恐ろしい…65歳未満の「若年性認知症」が2倍以上増加したワケ 働き盛りの40代後半で罹患、高齢者の倍速で進行。「初期症状は“歯”と密接に関係」【歯科医師が警告】
「最恐の菌」がアルツハイマー型認知症の原因物質を脳へ運ぶ
「アミロイドβ(ベータ)」――皆さんも耳にしたことはあるかもしれません。アルツハイマー型認知症の原因物質とされ、脳に溜まっていくことで神経細胞にダメージを与え、記憶力や判断力の低下を引き起こします。若年性認知症でも最も多いのがアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症は認知症の7割近くを占め、年齢とともに発症する割合が高くなりますが、先述のとおりアミロイドβの体内での蓄積自体は40代後半から始まっています。
そして、アミロイドβと驚くべきつながりがあるのが歯周病です。2012年11月に鹿児島大学を始めとする日本での研究で、アミロイドβと歯周病菌との関連が明らかになり、その後も2023年、2024年に関連論文が発表されています。
歯周病菌は「最恐の菌」といわれ、悪性の強い歯周病菌に蝕まれると小動物は死に至ることさえあります。
歯周病菌が歯ぐきに収まらず、毛細血管から全身に侵入すると、免疫細胞は「危ない奴がきた!」と大騒ぎします。それがきっかけとなり全身で炎症を引き起こすのですが、厄介なのは、それだけではありません。歯周病菌は脳内へも侵入を図り、アミロイドβをせっせと脳内に運び、溜め込みます。つまり認知症への階段を登らせるのです。
歯磨き時の「出血」は危険信号!自覚症状が出たときには手遅れの可能性も
歯周病菌は最恐の菌といいましたが、強力な毒性もあります。しかも歯ぐきの神経を麻痺させるので、歯がグラグラになっても痛みを感じさせません。さらに、歯周病で口臭が出ていても気づかないのは、嗅覚を麻痺させているためです。
このように本人に自覚がないため、歯周病は静かに進行する「サイレントディジーズ」(静かなる病気)といわれています。自覚症状が出たときには重症化していて、すでに手遅れで抜歯しか治療の選択肢がないことが少なくありません。
・歯ぐきの少しの腫れ
つまり冒頭の香川さんの症状も歯周病のサインです。実際、香川さんのような人は多く、診療をしていて「どうして、こんなになるまで放っておいたのか?」と思うことが多々あります。若年性認知症も歯周病も、初期サインは「一見なんでもない症状」なのです。