親の介護は、もはや「突然訪れるもの」ではなく「いつか必ず訪れるもの」として、自身のライフプランに組み込むべき時代になりました。その時、安易に「介護離職」の道を選ぶか、それとも制度や親の資産を賢く活用し、自身のキャリアと両立する道を選ぶかで、あなたの生涯収入や老後資金は大きく変わります。本記事では、Aさんの事例とともに、介護とライフプラン両立のポイントについてFPオフィスツクル代表・内田英子氏が解説します。
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介護と仕事の両立を支える法改正
総務省の調査によると、家族の介護・看護を理由に離職する人は約10万6,000人。特に50〜64歳に多く、Aさんのように、介護のために退職する事例は珍しくありません。介護は突然始まり、終わりもみえないため、多くの人が自分のキャリアや生活との両立に悩みます。
人口減少や高齢化が進展するなか、国は「介護を理由に離職せずに働き続けられる社会」を目指し、制度の見直しを進めてきました。大きな流れは次の3つです。
1.介護保険制度の転換(予防・自立支援型へ)
2005年:介護保険制度に「予防」の観点を導入。生活機能の維持・向上を目指し、専門的な判断のもと本人の自立を支援するための適切な手助けを行う方向に。
2.働き方に合わせた柔軟化
2017年:介護休業を分割して取得できるように(通算93日・3回まで)。
2021年:介護休暇(年5日)を時間単位で取得可能に。
3.職場における実効性の強化
2025年4月:従業員が介護に直面しても制度を利用し、介護によって離職をすることのないよう、企業に両立支援の取り組みの枠組みを強化。
・介護離職防止のための雇用環境整備
・介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認義務
・40歳前後からの早期情報提供義務
・介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
・介護のためのテレワーク導入(努力義務)
介護休業は「介護に専念する休暇」ではない
介護とキャリアのはざまで揺れる人は、決して少なくありません。自身のキャリアとライフプランを守るためには、制度を正しく理解することが重要です。
介護休業を「介護に専念するための休暇」と認識している方は少なくありませんが、本来介護休業は「介護の計画を立てるための制度」との位置づけです。厚生労働省の資料によると、介護休業期間は「主に仕事を続けながら介護をするための体制を構築する期間である」との認識を持つ企業・従業員の割合は約4割で、「介護休業期間は介護に専念するための期間である」との認識を持つ企業は約35%を占めています。
なお、「介護休暇」は、急な入院、施設探し、ケアマネジャーとの面談など、短期間で集中的に調整が必要な場面で活用するのが基本です。
介護にまつわる法改正は多く、ここ数年仕事との両立がスムーズにできるよう柔軟な制度利用をサポートする動きは着実に広がっています。制度を活用し、自身の介護に対する考え方も定期的に見直していくことが求められています。
