“夢のような暮らし”に大満足の夫婦。しかし…

旅行だと長くても1週間ほどで帰国することから、毎回「あれもできなかった、あそこにも行けなかった」と後ろ髪を引かれる思いですが、今回はそのようなことがありません。

滞在場所は、ホテルではなくあえてコンドミニアムを選択。こうすることで、「暮らす」視点が持ちやすくなります。

「この街で一生暮らせるなんて、夢のようだ……」

しかし、はじめはなにもかもが新鮮で楽しい毎日でしたが、3週間ほど経つとどこへも出かけない日も出てきました。

「なんだか暇だな……」

もし移住したとしても、リタイアメントビザでは就労することはできません。また、その他にも、旅行のときは気づかなかった「気になる点」が出てくるようになりました。

短期滞在で気づいた「見逃せないポイント」

実際に滞在してみて気になったことは、主に2つです。1つは、インフラの不備や衛生面です。日本での生活に慣れていると、不衛生に感じる部分があります。「郷に入っては郷に従え」とはいえ、「旅行で行くのと住むのではこうも感じ方が変わるのか」と夫婦は痛感しました。

2つ目は、病気のときの心細さです。滞在して1週間ほど経ったタイミングで、和恵さんが体調を崩し、病院にかかった2人。チェンマイでは先述したように日本語が通じる病院もあるものの、一貫してネイティブに日本語が通じるわけでもなく、結局ほとんど英語で診察を終えました。また、体調が悪いときには、日本で食べた和食が恋しくなり、夫婦の心細さはいっそう募っていきました。

チェンマイでの生活は、コスト面だけを考えれば、たしかに年金収入だけでゆったり暮らすことができそうでした。日本で同じ生活をしようとすれば、年金だけでは足りず、貯蓄を取り崩すことになります。年金だけで生活が完結することは大きなメリットです。

しかし……夫婦は、暮らしやすさはコストだけでは測れないことに、長期滞在してみてはじめて気がついたのでした。

「『なにかあったときどうしよう』が常に付きまとうのは不安だな……。いまの自分には、外国は「また行きたいと思う場所」として、旅行で訪れるのがちょうどいいかもしれない」

夫婦は1ヵ月ほど滞在した結果、本格的な移住は取りやめることにしたそうです。

老後の暮らしに欠かせない「安心」と「幸せ」

老後を海外で過ごすことは、老後資金を抑えるうえで合理的な選択肢のひとつかもしれません。しかし、それが、安心と幸せを感じられる暮らしであるかどうかはまた別の問題です。

老後の暮らしは、お金だけでは測れません。自分がどこで、誰と、どう生きたいのか、その答えに正直であることが、満足のいく暮らしにつながるでしょう。

石川 亜希子
AFP