税制面や物価の問題から、リタイア後に海外移住を検討する人が増えているようです。なかでも、物価の安さや温暖な気候、充実した日本人向けサービスを背景に移住先として人気のタイ。海外旅行好きなとある夫婦も“とある噂”を耳にし、大好きなタイ・チェンマイへの移住を決断。しかし、現実は甘くはありませんでした……。具体的な事例をもとに、海外移住の落とし穴をみていきましょう。石川亜希子FPが解説します。
やっぱ無理…「年金月25万円」「貯金2,000万円」旅好きな60代夫婦が東南アジア「チェンマイ」に移住を決意→“わずか1ヵ月”で帰国したまさかの理由【FPの助言】
夫婦が「チェンマイ」を候補地に挙げた合理的な理由
チェンマイは、首都バンコクから北に約700キロに位置するタイ第2の都市です。首都と比べると落ち着いた雰囲気で、日本人も多く暮らしています。チェンマイで暮らす主なメリットは、下記の4つです。
1.物価が安い
チェンマイでの主な生活費の目安は下記のとおりです。
・家賃(プールやジム付きのコンドミニアム):約7~8万円
・食費:約4万円
・電気、水道:約7,000円
・通信費:約5,000円
ここまでで約13万円。年金受給額約25万円でも十分生活できそうです。
2.食べ物が口に合う
屋台飯からおしゃれなカフェまで豊富にそろうチェンマイ。タイ料理だけでなく、日本食のレストランも豊富にあります。ローカルな食堂であれば数百円と価格も安く、自炊するよりも食費を抑えられるくらいです。
3.医療環境が整っている
チェンマイには私立病院も多く、英語だけでなく日本語が通じる病院もあります。全額を自費で支払う必要があるものの、国民健康保険の海外療養費制度や長期の海外旅行保険制度、現地の民間の医療保険への加入によって、一部は払い戻しを受けることが可能です。
4.治安がいい
首都バンコクと比べるとチェンマイはのんびりしていて、スリや詐欺といった犯罪も少なめ。また、地元の人々は穏やかで親日です。
外務省「海外在留邦人数調査統計」によると、タイに暮らす日本人の数は実に7万人以上。これは、国(地域)別で第5位、東南アジアに限れば第1位の多さです。
本格的な移住の前に“お試し滞在”を決行
国によって異なりますが、タイは、最大60日まではビザ不要で滞在することが可能です。ただし、それ以上長期の滞在には、夫婦の場合「リタイアメントビザ」の取得が必要となります。
リタイアメントビザの取得には、いくつかの条件がありますが、一番大切なのは資力証明で、下記3つのうちいずれかが必要です。
・タイの銀行にて80万バーツ(約364万円)の預金があること
・月額6万5,000バーツ(約29万円)以上の年金収入証明
・上記2点の合算
※タイ王国大阪総領事館「リタイアメントビザ Non-Immigrant O (Retirement)(50 歳以上)」より抜粋。レートはTHB/JPY4.55円で算出。
相談の末、夫婦は本格的な移住の前に“お試し滞在”することにしました。