税制面や物価の問題から、リタイア後に海外移住を検討する人が増えているようです。なかでも、物価の安さや温暖な気候、充実した日本人向けサービスを背景に移住先として人気のタイ。海外旅行好きなとある夫婦も“とある噂”を耳にし、大好きなタイ・チェンマイへの移住を決断。しかし、現実は甘くはありませんでした……。具体的な事例をもとに、海外移住の落とし穴をみていきましょう。石川亜希子FPが解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
やっぱ無理…「年金月25万円」「貯金2,000万円」旅好きな60代夫婦が東南アジア「チェンマイ」に移住を決意→“わずか1ヵ月”で帰国したまさかの理由【FPの助言】
定年後、大好きな海外旅行を我慢していた60代夫婦の決断
元会社員の遠藤武彦さん(仮名・68歳)と専業主婦の和恵さん(仮名・66歳)夫婦は、都内郊外の戸建てに2人で暮らしています。
子どものいない夫婦にとって、共通の趣味は旅。なかでもお気に入りは東南アジアの国々で、入念に計画を立てては、さまざまな国を繰り返し訪れていました。
しかし、武彦さんが定年退職した65歳以降、夫婦の現在の収入源は月に約25万円の年金のみです。総務省「2024(令和6)年家計調査報告」によると、65歳以上の夫婦のみ・無職世帯における消費支出の平均は約25万6,000円。遠藤夫婦の支出額は平均並みのため、これまでのように旅行へ行くためには貯金を切り崩す必要があります。
夫婦には子どもがいなかったものの、大好きな海外旅行をはじめ、支出もそれなりに多かったことから、貯金額は武彦さんの退職金を含めて2,000万円ほど。そのため、わざわざ貯金を切り崩すのは気が進まないと、夫婦は年金生活になってから、大好きな旅行を我慢していました。
そんなある日のこと。夫の武彦さんは、同世代の旅行好きの仲間から次のような噂を耳にしました。
「東南アジアなら、年金だけでゆったり暮らせるらしい」
「旅」ではなく「住む」――。これまで考えてもみなかったことですが、もしも仲間の言うとおりなのであれば、これほど魅力的な選択肢はありません。
この話を聞いた武彦さんは、思い切って妻の和恵さんに相談。すると、思った以上に妻も乗り気です。
こうして思わぬ選択肢に盛り上がった夫婦は移住先を吟味。その結果、以前訪れて気に入っていたタイの古都チェンマイを候補に挙げます。