ゲリラ豪雨のたびに冠水する道路や駅地下、異常気象が“通常”となりつつある日本。水害が発生するリスクは年々上昇している一方、日本の都市部は「大雨に弱い」構造であることをご存じでしょうか? いまやいつ起きてもおかしくない水害の要因とその危険性について、『47都道府県の怖い地理大全』(彩図社)より紹介します。
あなたの街は大丈夫?都市部に潜む水害リスク…大都市・渋谷の真下にも広がる「暗渠(あんきょ)」の知られざる危険性
川があふれずとも浸水する“内水氾濫”とは?
大雨が降ると、堤防の決壊や川の水の氾濫により、河川周辺の地域は安全を脅かされる。では、川から離れた場所なら安全かと言えば、そうとも言えない。
2019年8月26日からの大雨で、佐賀県佐賀市は甚大な被害を受けた。27日、28日の総降水量は平野部で427ミリを記録、山間部では431ミリと、8月の月降水量の平年値(196・9ミリ)を上回った。県内河川の多くが氾濫し、佐賀駅周辺だけでも浸水面積は約2950ヘクタール、浸水深は最大83センチにもなり、金立町では土石流も発生した。県全体の死傷者は6名、家屋の損傷と床上・床下浸水は6000戸を超えている。
注目すべきは、こうした浸水被害の多くが内水氾濫によるものだったことだ。
平地に雨が降ると、流出先のない雨水は地面に溜まる。多くの町村には排水路やポンプがあるものの、短期に過度の雨水が集中すると、処理しきれずに水はあふれ出る。これが、内水氾濫である。川の増水や堤防決壊で起きる外水氾濫に対して、川から離れた町の内側で発生する水害である。
佐賀市の北部は筑紫山地を含む標高の高い地形だが、南部は沖積平野の佐賀平野が広がっている。海抜が低くて河川が多く、六角川流域は6割が潮位よりも標高が低い。内水氾濫が発生すると、大きな被害を受ける地形だ。六角川流域の杵島郡大町町では、内水氾濫による鉄工所の損傷で、油の流出被害まで発生していた。
被害を防ぐため、佐賀市は各河川に排水ポンプを整備していた。しかし排水先の六角川は豪雨で増水し、外水氾濫を防止するためポンプの一部が緊急停止した。排水機能は機能不全に陥り、佐賀駅周辺では、下水からの逆流や道路を伝った雨水の流入で浸水が拡大していった。
2021年8月にも、記録的豪雨で六角川流域を中心に甚大な被害が発生した。三度目の内水氾濫を防ぐため、佐賀県は内水対策チームを設置し、水害対策の強化を推進している。
内水氾濫は、全国の都市部で懸念されている災害である。国土交通省が発表した全国の水害被害額(2012~2021年の合計)の約4兆円のうち、30パーセントが内水氾濫によるものだった。日本全体での対策が望まれるところである。
地形ミステリー研究会
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