現役時代、身を粉にして働き、潤沢な資産を蓄えた男性。念願の“隠居生活”で待ち構えていたのは、思いもよらない「老後の罠」でした。息子に経営権を譲った70歳元経営者の事例から、高所得者が老後に陥りやすい「家計破綻」の落とし穴とその対策をみていきましょう。山﨑裕佳子CFPが解説します。
お前の会社で働かせてくれ…「年金月7万円」「貯金8,000万円」社長の座を息子に譲った70歳元社長、引退後わずか2年で「息子に頭を下げた」まさかの理由【CFPの助言】
「支店長を出せ!」電話口で怒鳴る誠一さんだが…
約500万円の含み損がでているという話を聞いた誠一さんは、「話が違うじゃないか! 支店長を出せ!」と激怒します。
しかし、銀行側は「最初にご説明したとおり、投資信託は元本保証のある商品ではございませんので……」の繰り返し。いくら騒いでも事実は変えられません。
「なんでこんなことに……」
茫然自失状態の誠一さん。このままでは破産しかねないと、藁にも縋る思いで「悪いが、俺をお前の会社でもう一度働かせてくれないか……」と、2年前に社長の座を譲った息子の亮太さん(仮名)に懇願。
亮太さんからは「働くのはいいけど、いまの生活スタイルを見直さないと結局いつかは破産するだろ。働くのはお金の使い方を考え直してからにしてくれ」と厳しく叱られてしまいました。
誠一さんは“レアケース”ではない
生命保険文化センターの調査によると、夫婦2人の老後の最低日常生活費の平均は月額23万2,000円ですが、ゆとりある老後生活を望むのであればさらに14万8,000円上乗せした37万9,000円が必要というデータがあります。
一般的に老後の収入の柱となるのは公的年金です。生活費が年金額を上回る場合は預貯金などの資産を取り崩しながらの生活となります。
ただ、自営業者は年金が老齢基礎年金のみであり、その満額は月額69,308円(令和7年度)と決して十分とはいえません。そのため、預貯金への依存度が高くなり、綿密かつ計画的な老後資金計画が大切になるのです。
いまある資金を投資などで働かせることが悪いわけではありません。しかし、投資には元本保証はないため、仕組みをよく理解しないまま投資をしてしまうと「こんなはずではなかった」という後悔につながりやすくなります。
幸いにも、誠一さんには働く場所があります。収入の柱を年金と給与収入の2本立てにすると同時に、生活スタイルの見直しが不可欠です。
引退後の生活費の目安は現役時代の7割ほどといわれています。一度上げた生活費とプライドを下げることは簡単ではありませんが、この先の長い人生を考えた場合、支出の見直しが急務でしょう。