現役時代、身を粉にして働き、潤沢な資産を蓄えた男性。念願の“隠居生活”で待ち構えていたのは、思いもよらない「老後の罠」でした。息子に経営権を譲った70歳元経営者の事例から、高所得者が老後に陥りやすい「家計破綻」の落とし穴とその対策をみていきましょう。山﨑裕佳子CFPが解説します。
お前の会社で働かせてくれ…「年金月7万円」「貯金8,000万円」社長の座を息子に譲った70歳元社長、引退後わずか2年で「息子に頭を下げた」まさかの理由【CFPの助言】
誠一さんの貯金が減っていくもうひとつの大きな原因
また、趣味の車も資産の減少を加速させる大きな要因のひとつでした。
5年前に購入した高級外車は維持費が高いにもかかわらず、乗り味が気に入っていることからなかなか手放すことができません。先日はエンジントラブルでディーラーに修理を依頼したところ、見積りはなんと120万円を超えていました。
このままではまずいという気持ちがあるものの、現役時代の付き合いがあるなかで安い車に乗り換えるのはプライドが邪魔をします。
このように、収入が激減してからも現役当時と同じ生活を続けてしまった結果、預金はみるみるうちに減っていったのです。
さすがの誠一さんも「このままではまずい」と焦りました。そこで1年前、誠一さんはある行動を起こします。
焦りが生んだ“大失敗”
誠一さんは、昔から取引のある銀行を訪ねて「お金を増やしたい」と相談します。すると、銀行の担当者から毎月分配型の投資信託をすすめられます。
誠一さんはこれまで投資とは無縁の生活を送っていました。商品の仕組みについて説明を受けましたが正直よく理解できません。しかし、銀行が言っているんだからきっと大丈夫なんだろうと、この時点での預金残高約7,000万円から3,000万円を投資信託に回しました。
「よし、これで安泰だ。放っておいてもお金が働いてくれる」
誠一さんは銀行員の言葉を信じ、それまで同様に散財を続けてしまいます。そればかりか調子に乗って車を買い換える始末。新車に1,500万円も使ってしまいました。
銀行からかかってきた一本の電話
そんなある日、銀行の資産運用担当者から一本の電話が……。
出ると、銀行員が緊張した声で「少しお話したいことがあります」とつぶやきます。
「なんだ、話って、いまはこれ以上投資する気はないぞ、いまのままで十分だ」と誠一さん。
「いや、申し上げにくいのですが、実はお客様の保有する投資信託の価値が大幅に減少しておりまして……そのご報告です」
話を聞いてみると、株価下落の影響により運用が予定利回りを下回っていること、その影響で毎月の分配金が投資元本の一部から支払われているため、資産が目減りしているという説明を受けました。