思い描いていた「老後のかたち」は、ある日を境に一変することがあります。そして誰にでも起こりうる「そのとき」に備えるために、複雑な年金の仕組みをきちんと知っておきたいものです。「知っているつもり」でいると、いざというとき戸惑うことも珍しくありません。
聞いてた話と全然違う!〈年金月18万円〉67歳の夫を亡くした65歳妻、想定の25分の1の「遺族年金額」を思わず二度見 (※写真はイメージです/PIXTA)

友人からのアドバイスで年金の手続きをしたが

夫との急な別れから1年。信じられないという気持ちはありつつも、少しずつ悲しみは和らいでいるといいます。そのなかで大きかったのは友人の存在。

 

「同じように相手を亡くしている友人がいて、彼女が寄り添ってくれたのが大きいですね」

 

しかし、その友人からのアドバイスが、後にがっかりする出来事につながったそうです。「今となっては笑い話なんだけど――」と、細かな内容を教えてくれました。それは遺族年金。友人は「年金の手続きはきちんとしておいたほうがいい/亡くなった夫の年金の4分の3はもらえるから/年金は時効があるから、損をしないうちに早く、早く」とせかしたといいます。

 

徹さんが受け取っていた年金は、月におよそ17万円。智子さんはパッと計算します。「12万7,500円かあ」。一方、智子さんが受け取っていた年金は月16万円ほど。合わせると30万円弱になります。「確かに、受け取らなきゃ損ね……」。そう考え、早速、手続きを行った智子さんでしたが、最初の振込日に仰天。思わず、振込額を二度見したそうです。

 

「もらえる遺族年金が月5,000円だったの。25分の1よ。思わず『聞いていた話とまったく違うんだけど!』とツッコミを入れてしまったわ」

 

智子さんの場合を一つひとつみていきましょう。

 

まず遺族年金には国民年金に由来する「遺族基礎年金」と、厚生年金に由来する「遺族厚生年金」があります。前者には子の要件があり、智子さんが受給対象になるのは後者だけ。また受給額は、亡くなった人の老齢厚生年金の4分の3。ここだけが広く伝わり、「遺族年金は亡くなった人の年金の4分の3」という誤解を生んでいます。

 

また65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある場合は、「①死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「②死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と、自身の老齢厚生年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高いほうが遺族厚生年金の額となります。

 

ここまでで、智子さんが受け取れる遺族年金額は9.5万円ということになります。

 

さらに65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある場合、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。

 

結果、智子さんが受け取れる遺族年金は月5,000円ほどとなり、当初、思い描いていた額の25分の1ということになったのです。

 

改めて「年金制度の複雑さ」を知ったという智子さん。

 

「共働きで、万一のことが起きても何とかなると思っていたので、年金への関心が低かったのは反省点です。仕事を辞めたこれからは、年を重ねるごとに年金の存在感は増していくでしょ。きちんと勉強しないといけませんね」

 

[参考資料]
厚生労働省『令和6年版 厚生労働白書』
日本年金機構『遺族厚生年金』