棚田は「地滑りがあった」サイン?

稲作地帯では、水田が階段状に並んだ光景が時折見られる。傾斜地を利用して稲作を行う棚田である。平地の少ない土地・狭い土地でも稲作をするために考えられた工夫だ。

景観が評価される棚田も数多いが、実は地形学の観点で見ると、棚田は災害時において危険地帯になる可能性がある。

棚田をつくるには、必須条件が二つある。「定住可能な緩い斜面」と「豊富な地下水」だ。これらが両立する土地は、多くが古い地滑り跡である。

地滑りの多発地域は、地下水が豊富な場合が多い。地下水が多いと地盤が弱くなるため、大雨などで崩れやすくなる。崩れ落ちた土砂はなだらかに傾斜をつくり、やがて緩い斜面を形成する。山岳地と比べれば人間が暮らしやすいので、集落も生まれる。こうして古い地滑り跡は開発され、棚田もつくられていった。

例えば長野県千曲市にある姨捨の棚田は、土石流か山体崩壊で形成されたといわれる。滋賀県大津市比叡山山麓の棚田地帯も、位置するのは古い地滑り地域だ。岐阜県恵那市の坂折地区は、地滑り地の岩を除去して開拓された。島根県奥出雲の棚田は砂鉄採掘の跡地と性格は異なるものの、地盤の弱い土地にあるという点は共通している。

こうした土地では、繰り返し土砂災害が起きる危険がある。目には見えないペースだが、地滑りによる土地移動は毎年起きている。年数ミリメートル~数センチメートルと非常に遅いが、地震や集中豪雨で一気に崩れることもある。2024年5月14日には、新潟県上越市清里区にて棚田が大規模な土砂崩れで崩壊した。これは、能登半島地震による地盤のゆるみと水の浸食が原因だという。

棚田は水を貯めて洪水発生を防止しているともいわれる。だが、現在は放棄されて荒廃するケースも増えている。土砂流出の防止策検討が急がれるところである。

地形ミステリー研究会
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