(※写真はイメージです/PIXTA)
「大丈夫だ」の一言が、老後資金を溶かしていく
約束から10年の月日が流れ、翔太さんは高校生になりました。そして、大学進学を目前に控え、将来のことで深く悩んでいたのです。翔太さんは、幼い頃からの憧れだったアメリカの大学への進学を夢見ていましたが、両親の経済状況を考えると、とても言い出せるものではありませんでした。
悩んだ末、翔太さんは両親ではなく、優しい祖父の浩一さんに相談を持ち掛けました。決して10年前の約束を当てにしてのことではありません。ただ、誰かにこの胸の内を聞いてほしかったようです。
「アメリカの大学なんて、うちには無理だってわかってるんだ。でも、諦めきれなくて……」
俯く孫の姿に、浩一さんの心は決まりました。あの日の約束を果たす時が来たと。孫の夢を、経済的な理由で諦めさせてはならない。その一心で、浩一さんは力強く言い放ちました。
「大丈夫だ。学費のことは心配するな。じぃじに任せておけ」
浩一さんは、良子さんに相談すれば猛反対されることがわかっていました。だからこそ、独断で定期預金を解約し、500万円という大金を引き出したのです。可愛い孫の夢を叶えたいという祖父としての愛情、そして、一度交わした約束は必ず守るという、男としての意地が、浩一さんを突き動かしました。
日本学生支援機構『平成30年度海外留学経験者追跡調査報告書』によると、1年以上の留学経験者の留学総費用は、「100万~200万円未満」が21.1%、「200万~300万円未満」が13.7%、「300万~400万円未満」が7.4%、「400万~500万円未満」が7.0%、「500万円以上」が15.2%。一方で、文部科学省の調査によると、保護者が留学費用として出せる最大の金額として最も多かったのは「100万円以下」で45.3%。「500万円以上」は5.7%で、実態とは大きな乖離があります。
「なぜ、勝手に決めちゃうの!」
「翔太は人生がかかっているんだぞ!」
「孫は翔太だけじゃないの。5人もいるのよ。翔太に500万円も支援したら、他の子たちにも支援しなきゃ不公平になるでしょ。そんなお金、どこにあるのよ!」
「翔太に夢を諦めろというのか!」
リビングでの夫婦の口論は、平行線を辿るばかりでした。良子さんにとっては、夫婦で築き上げてきた大切な資産であり、老後の生活においては安心のベースになるものです。一方、浩一さんにとっては、孫の未来を拓くための「投資」であり、破るわけにはいかない「約束」でした。
暴走気味の浩一さんでしたが、徐々にクールダウン。まずは親子で話し合うべきと、翔太さんに伝えました。そのうえで、実際にいくら支援できるのか、良子さんと話し合い、現実的な金額を申し出るつもりだといいます。
[参考資料]
文部科学省『日本人学生の海外留学状況』
日本学生支援機構『平成30年度海外留学経験者追跡調査報告書』
文部科学省『学生の海外留学に関する調査2022』