(※写真はイメージです/PIXTA)
孫との「約束」が招いた、夫婦の亀裂
林良子さん(68歳・仮名)は、その日もいつものように、近所の銀行へ向かいました。夫の浩一さん(70歳・仮名)がリタイアして数年、夫婦の主な収入源は二人分の年金、合わせて月におよそ28万円。贅沢はできないまでも、都内で持ち家に暮らし、たまに旅行や外食を楽しむ程度のささやかな楽しみを大切に、穏やかな日々を送っていました。
ATMで通帳を記帳し、印字された数字の列に目をやった瞬間、良子さんは息を呑みます。残高が想定していたよりも大幅に減っていたのです。取引履歴を遡ると、数日前に「500万円」という、見慣れない大きな金額が引き出されていることに気づきました。
(えっ、何? 何かの間違いでは? 詐欺? 詐欺にでもあったのかしら?)
血の気が引くのを感じながら、良子さんは震える手で通帳を握りしめ、家路を急ぎました。まずは夫の浩一さんに相談してから、銀行に問い合わせようと考えたのです。
帰宅すると、浩一さんがリビングで呑気にテレビを観
ています。良子さんは平静を装うこともできず、手に持った通帳を突きつけるようにして夫を問い詰めました。
「ちょ、ちょ、500万円ものお金……あなた、心当たり、ある?」
浩一さんは一瞬気まずそうな顔をしましたが、やがて観念したように、重い口を開きました。原因は、10年前に交わした孫との約束にあるというのです。
話は10年前に遡ります。当時はまだ7歳だった孫の翔太さん(現在は17歳・仮名)が、テレビに映るニューヨークの摩天楼を指さし、目をキラキラと輝かせていました。「すごいねぇ、外国って。僕もいつか行ってみたいな」。無邪気な孫の言葉に、浩一さんは目を細め、満面の笑みでこう応えたのです。
「そうかそうか、行きたいか。よし、わかった! 将来、翔太が大きくなったら、じぃじがお金を出してあげるから。日本を飛び出していきなさい」
文部科学省『日本人学生の海外留学状況』によると、海外へ留学した日本人学生は2023年度で89,179人。昨今は短期留学が大きく増加しているといいます。また留学者数の多い国・地域は、アメリカ合衆国が13,517人、オーストラリアが9,163人、韓国が8,384人と続き、地域としてはアジアへの留学が増えています。