二槽式洗濯機の中身

中には、カビだらけの洗濯物とパンパンに膨れた紙おむつが詰まっていたのです。おむつの内容物であるゼリーが散乱し、一見してひどい有様とわかります。湿気と熱で臭いが強烈に広がり、Aさんは目を背けずにはいられませんでした。

「まさか、こんな状態で暮らしていたなんて」

驚きとともに、昔からそりが合わない父をなるべく遠ざけ、多忙を理由に様子を頻繁に伺わなかったことをAさんは大きく後悔しました。

通帳の残高を確認すると残高は70円のみ。収入は月6万円の年金だけで、毎回使い切っていたようでした。母もすでに他界し、Aさんのほかに、父には近しい親戚などはいません。

「これだけのもの、どうすればいいんだ」

異臭漂う昭和の家で、Aさんはひとり頭を抱えました。

備えがなければ、残された家族に重い負担が

もし突然一人暮らしの親が亡くなった場合、事前の備えがなければ、残された家族は大きな負担を負う可能性があります。故人を見送ったあと、残された家族がすぐにやらなければならないことは、想像以上に多く、時間も体力も気力も必要です。

・死亡届の提出(7日以内)
・葬儀・火葬の手配・親族・関係者への連絡
・年金の停止手続き
・公共サービスや携帯電話等の解約手続き
・健康保険証・介護保険証の返還
・家の片付け・家の相続登記
・相続人の確認
・相続財産の調査・相続税の申告

経済的な備えとして葬儀費用や相続税納税の準備がない場合、残された家族が負担を負うことになるでしょう。また、持ち家の場合、住む人がいない場合は相続後、売却することとなりますが、立地が悪かったり、適切な修繕が行われておらず、修繕費用の負担が必要になったりすると、売却が困難となる可能性もあります。

夏場の孤立死・孤独死といったケースでは、短い期間で遺体の損傷が進みやすく、特殊清掃が必要になる可能性もあるでしょう。その場合、状況や家の広さなどによっても異なりますが、数十万円の費用負担発生の可能性も考えられます。

いまできる備え

親などが孤独死をした場合、残された家族は精神的にショックを受け、心の整理に時間を要するかもしれません。Aさんは経済的負担に加え、深い後悔と心の痛みを抱えることになりました。とはいえ、一人暮らしの高齢者世帯が増えている背景には、親子で生活環境が異なり、遠方で別居する世帯が多いことがあります。そのため、こまめに様子を伺いたいと思っても、現実問題として難しい、というケースは多いでしょう。

そういった場合には、自治体や民間企業が提供する「見守りサービス」の利用が有効な選択肢の一つとなるかもしれません。一人暮らしの高齢者世帯が増えるなか、官民でさまざまな見守りサービスが登場しています。

見守りネットワーク

お住まいの自治体と地域包括支援センターが中心になって構成されているシステムで、民間事業者や専門機関、地域住民と協力して広くネットワークを構築しています。実施状況は自治体によって異なりますが、事前に登録しておけば、対象者が日頃利用しているサービスや専門の見守り員を通じて、さりげない見守りを受けることができます。

自治体によってはサロンやクラブ活動などに参加することができ、住み慣れた地域で暮らしながら、できる限り孤立しない環境づくりを進めることができます。

民間の見守りサービス

民間企業でもさまざまな見守りサービスが提供されています。

たとえば、冷蔵庫やトイレ、照明など生活するなかで必ず通る場所にセンサーを設置し、一定時間以上動きがない場合に家族に知らせてくれるサービスや、炊飯器やポット、洗濯機やエアコンなどの家電の使用状況を通知することにより、離れて暮らしていても家族に異変を知らせてくれるサービスなど。自宅に設置できるタイプは多種多様です。

訪問型のサービスもあります。たとえば本人が出かけなくても郵便局のスタッフが定期的に家に訪問し、直接会話を通じて様子を確認してくれるサービスや、お弁当の配食サービスなどに付随して安否確認を行ってくれるサービスなどです。