日本国内だけで3,000万人以上、成人の3人に1人が罹患しているといわれる「脂肪肝」。いまや国民病ともいわれるこの病ですが、食事に気をつけている「痩せ型」の人であってもかかる可能性があると、肥満・脂肪肝専門医の尾形哲氏はいいます。同氏の著書『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術【増補改訂版】』(KADOKAWA)より、50代女性の事例をもとに、「筋肉量」と「脂肪肝」の関係性についてみていきましょう。
握力が「18kg以下」の女性は要注意?…筋肉量と「脂肪肝」の無視できない関係【専門医が解説】
筋肉で消費できなかった「糖」は、肝臓で「中性脂肪」に化ける
「もう1つ理由があります。筋肉はエネルギーを消費する“工場”のような働きをしています。摂取したブドウ糖の7~8割は筋肉で使われるのです。だから、筋肉量が減ると使用されずに余った糖が増え、さらに肝臓に回りやすくなるんですね」
「筋肉って運動するのに必要なだけではないんですね」
「そういうことです」
「肝臓に回った糖がグリコーゲンではなく、中性脂肪になるのはなぜですか?」
「肝臓でグリコーゲンを貯蔵できる量にも限界があるからです。お伝えしたように、余ったブドウ糖はまずはグリコーゲンとして肝臓に貯蔵されます。しかしそれだけで対処できないと、グリコーゲンの6倍もの量を貯蔵できる“中性脂肪”に形を変えるのです。そして、無理やり肝細胞に押し込むわけです」
「なんと! そんなことが起こっているのですね……」
「筋肉量の減少は肝臓に脂肪を増やす大きな原因になります。そこで筋肉量を判断する1つの指標が“握力”なのです」
「先生、聞いてもいいですか? 筋肉量が減ると体重も減りそうですが、体重はあまり変化がありません」
「それは、筋肉が減り、代わりに脂肪が増えてしまったからでしょうね」
「……。なるほど。体重だけではわからないということですね」
「おっしゃるとおりです。だから、スマート外来では受診時に『体脂肪率』と『筋肉量』を計測しています。今日の計測では、体脂肪率41.9%。筋肉量11.8kgでした。これからは体脂肪率を下げて、筋肉量を増やすことが1つの目標になりますよ」
「筋肉を増やせ」と言われても、運動をする時間なんて作れそうにない。
〈先生からの処方箋〉
筋肉量が少ない人は糖の貯蔵庫が少ない。だから、肝臓にもすぐ脂肪がたまる。
尾形哲
長野県佐久市立国保浅間総合病院
外科部長/「スマート外来」担当医