親子だからといって、誰もが良好な関係を築けるわけではありません。子どものころに抱いた親への苦手意識や反発心は、大人になっても根深く残ることがあります。実家を離れて物理的な距離ができると、その気まずさを解消するきっかけを失い、意識的に連絡を避けるように……。やがて、親がいまどんな生活をし、なにを考えているのかまったく知らないまま、何年もが過ぎてしまいます。本記事では、Aさんの事例とともに人間関係が希薄化した現代における相続について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
「幸せに。大金があります」ふた言で終わった78歳父の遺言…年金8万円“変わり者”の家賃滞納ゴミ屋敷を大片付け。疎遠な45歳息子がよれよれのスポーツバッグから見つけた〈衝撃の遺物〉【FPが解説】
父の遺言書
父が亡くなったことをAさんに知らせてくれたのは、父が生前に死後事務委任契約していた業者でした。
父の晩年について尋ねると、散歩してはガラクタを拾って帰り、ブツブツと独り言をいいながら分解することを繰り返していたらしく、そうした経緯から部屋のなかがゴミ屋敷になっていったそうです。
業者が生前の父に依頼されていたことは、Aさんの父には頼る身内がいないため、自身が亡くなったら最後の手続き等をしてほしいといった旨のものでした。父が亡くなったときに、そのことを伝えてほしい相手として指定したのはAさん1人だけだったとのこと。業者は預かっていたメモをAさんに渡しました。父にとっては遺言代わりのつもりだったようです。
読んでみると、「幸せに暮らしてください。大金がありますよ 父より」とだけ書かれていました。これだけ?と唖然とするAさん。
遺言書の内容の真偽はともかく、家の片付けはしなければいけません。Aさんは業者とともに父の住んでいたゴミ屋敷のなかへ足を踏み入れました。狭いアパートの一室はゴミで溢れていて、足の踏み場もありません。どうにか必要最低限の足場を確保してから、大きなゴミ袋にひたすらゴミを詰め込み始めます。
手を動かしながらも、頭の片隅には父の遺言が常にありました。短い文章のインパクトが強かったからか、大金という文言が魅力的に見えたからかはわかりません。このゴミ屋敷のどこかに大金があるのだろうか。ぼんやりとそんなことを考えながら、Aさんは業者と協力してひたすらゴミの片付けを続けました。
しばらく片付けをしていると、部屋の隅にくたびれたスポーツバッグを見つけたのです。持ってみるとずっしりとした重みがあります。中身を確認してから破棄することに。ファスナーをあけてみると……。ゴミの山のなかから父の貧しい暮らしとはあまりに不釣り合いな「あるもの」が。
なんと「金」が入っていたのです。これにはAさんもビックリ。父は退職金等のまとまったお金で金を購入していたようです。業者によれば、父は普段の生活を年金の月8万円で細々とやりくりしていたというので、金には一切手を付けず、このスポーツバッグにしまっていたのでしょう。
金を換金した場合の金額は2,000万円ほどになることがわかり、さらに驚きます。どうやら父の遺言書にあった「大金」とはどうやら、この「金」のことだったようです。家賃滞納や生活苦であっても、金を換金することなく頑張って生活していたのだろうと推測できます。