葬儀もお墓も、財産の準備も万端。「自分の終活」は済ませ、子どもに迷惑をかけない準備ができたと、胸を撫で下ろしている高齢世帯もいるでしょう。しかし、「自分のこと」とは別問題として、たった一つ、どうしても解決できない“最後の心残り”が重くのしかかってくることも……。本記事ではAさんの事例とともに、お金の問題を超えた終活について、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が解説していきます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
終活を済ませた年金180万円・おひとり様の69歳母。「三途の川を泳いで渡る」と豪語、スイミング通いも…〈唯一の心残り〉を聞いた44歳娘、涙【FPが解説】
終活は万全、のはずが…
Aさん(44歳)は都内で働く会社員。父を早くに亡くしたため、37歳で結婚を機に実家を出てからは、母(69歳)は一人暮らしです。Aさんの母は、夫の遺族年金と自身の年金で年額約180万円(月額15万円)の収入があり、日々の生活における金銭的不安は少ない状況です。
しかし、母が65歳を過ぎたころからは、今後、病気やケガをしたときのことを考えると、早めに高齢者施設でも探したほうがよいのかと不安になることもしばしば。Aさん自身、夫の親の介護をしているため、母との同居は難しく、実家に一人残した母の将来を案じています。
母は昔から何事も余裕をもって行動する性格。「心配しないで」という言葉どおり、葬儀やお墓の手配も完璧に済ませていました。スイミングに通って健康を管理。「何歳で死んでも三途の川は泳いで渡れる」と、豪快に笑います。死への準備は万端にみえたのです。年に数回、Aさんは実家を訪れるたび、母の計画性に「さすがね」と脱帽していました。
完璧な母が漏らした、唯一の不安
ところが最近、母の様子に不安な影が差します。Aさんがどうしたのかと尋ねると、母は唯一の不安を告白しました。
それは、最近近所のスーパーの駐車場で拾って飼いはじめた一匹の「猫」の存在でした。
「私の母(Aさんの祖母)は70歳で死んだから、私も同じくらいだと思うの。でも、この子はまだ若いから、きっと長生きする……」
母は、自分がいなくなったあと、残される猫の長い寿命だけを心から案じていたのです。
「私も、いつお迎えにきてもおかしくないのかもしれない。あなたに任せたいけれど、あちら(Aさんの義実家)のご都合もあるし、仕事もあるし、マンションはペット不可でしょう。どうしたらいいのか、最近は夜も眠れなくなるほど不安で……」