年金制度の移行期を生きたことで、十分な年金を受け取れずに暮らす高齢者たち。特に夫を亡くした女性の貧困は、深刻な社会問題です。しかし、そうした人々を支えるための、あまり知られていない国の支援制度が存在します。ある日ポストに届く「緑の封筒」が、その重要な知らせかもしれません。本記事ではAさんの事例とともに、年金制度について、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が解説していきます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
亡き夫が遺した「最後の愛」…〈遺族年金ゼロ〉行き過ぎた節約で栄養失調の70歳妻を、時を超えて救った「緑色の封筒」【FPが解説】
任意加入だった年金
公的年金は、1985(昭和60)年の改正により、全国民共通で支える基礎年金制度が創設されました。日本に住所を有する20歳から60歳の人は、国民年金の第1号被保険者といわれ、国民年金保険料を納付するようになり、会社員や公務員などの人は厚生年金保険に加入し、国民年金の第2号被保険者となりました。さらに第2号被保険者に扶養されている配偶者は、国民年金第3号被保険者とされ、第1号から第3号のいずれかに属することになりました。
この法改正前は、国民皆年金制度とされているものの、会社員などを除く国民年金保険料を納付するのは任意だったため、納付している人は少数派だったのかもしれません。そのため、自営業や専業主婦の人で1986年4月の法施行前にすでに20歳以上の人は、満額(40年)保険料を納めていない人が多く、年金が低額になっている人がいます。
任意加入時代、保険料を払えなかった自営業夫婦
Aさんは高校卒業後、家業の飲食店を手伝っていました。飲食店の常連客だった男性と交際を始め、25歳で結婚。夫は再婚だったこともあり、18歳の年の差がありました。
結婚後、夫婦で念願のお店を開業。しかし、当時は国民年金への加入が任意だったこともあり、開業したばかりで余裕のない二人が保険料を納めることはありませんでした。お店が軌道に乗ってきた矢先、夫が友人の保証人になったことで多額の借金を背負い、返済のためにお店は譲渡し、二人三脚で少しずつ貯めた財産を失ってしまいます。
その後も夫婦で一生懸命働きましたが、国民年金保険料を納める余裕は生まれませんでした。
ただ、夫にはAさんと結婚する前の会社員時代に、12年ほど厚生年金に加入していた期間があります。一方、Aさん自身は、68歳になった夫が病気で働けなくなったことで病院の食堂でパートを始めたことを機に、50歳になるまで一度も年金制度に加入したことがありませんでした。
妻に内緒で払い続けた保険料
当時の年金制度では、受給資格期間が25年なければ老齢年金を受け取れませんでした。困窮する暮らしのなか、年金を受け取れないことに絶望した夫は、「妻にだけは苦労させたくない」と、Aさんに内緒で彼女の国民年金保険料を工面して納めはじめます。
幸いにも、2017年の法改正で老齢年金の受給資格期間が10年に短縮されたことで、夫も自身の老齢年金を受け取れるようになりました。2人の暮らしは、わずかながらも安堵に包まれました。