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母親の介護、どんどん減っていく貯金……八方塞がりに
月10万円の年金暮らし。それだけでも厳しい生活を強いられますが、田中さんにはさらなる重圧がのしかかっていました。90歳になる母親、静江さん(仮名)の介護。5年前に父親が亡くなり、一人暮らしだった母親は急速に足腰が弱り、3年前からは何かとサポートが必要になっていました。
「子どもが面倒をみるのは当たり前」。そう覚悟を決め、母親をアパートに引き取り、在宅での介護をスタートさせました。しかし、現実は想像以上に過酷でした。日々の食事の準備や排泄の介助はもちろん、週に3回のデイサービスの送り迎え、定期的な通院の付き添い。自分の時間はほとんどなくなり、心身ともにすり減っていきました。
何より深刻なのが経済的な負担でした。自身の年金と母親の年金から家賃と光熱費、食費などを賄い、さらに母親の介護費用を捻出する必要がありました。介護保険を利用しても自己負担分のほか、おむつ代や医療費、栄養補助食品などの雑費もかさみ、毎月3万円以上の出費がありました。赤字が発生したら、わずかな貯金で補填――しかし、その貯金も、この3年間の介護生活で見るみるうちに減っていき、通帳の残高は50万円を切ったとき、田中さんは血の気が引くのを感じたといいます。
生命保険文化センター『2024年度 生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)』によると、月々の介護費用は平均9.0万円。また、介護を行った場所別に介護費用(月額)をみると、在宅では平均5.3万円、施設では平均13.8万円です。田中さんの負担は平均よりは少ないものの、収入が年金のみであることを考えれば、その負担は計り知れません。
「もう、どうやって生きていけばいいのか、分からなくなってきました。真面目に働いてきた人生は何だったのでしょう……」
田中さんのように年金だけでは生活が成り立たず、介護も抱える状況は、決して他人事ではありません。まずは1人で抱え込まず、生活保護の申請を含め、自治体の福祉窓口に相談することが重要です。生活保護は権利であり、再出発の支えとなるものです。また、介護の負担が限界に達しているなら、地域包括支援センターへの相談が有効です。介護サービスの見直しや施設入所の提案など、具体的な支援策が得られます。困ったときにあらゆる制度を活用することは甘えではなく、賢明な判断なのです。躊躇する必要はありません。
[参考資料]
厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』
生命保険文化センター『2024年度 生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)』