定年を目前に控えたとき、多くの人が「仕事を辞めてゆとりある生活を」と夢を描きます。しかし、そんな夢を現実にできる人は少数派。老後の安泰は、そう簡単に手にできるものではないのです。
う、うそだろ…〈年金20万円〉〈退職金3,500万円〉定年退職を前にした59歳男性。「仕事を辞めたら海外旅行にでも行くか」と余裕の発言も、妻から突きつけられた「まさかの事実」に絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

平均よりもずっと多い〈退職金3,500万円〉を手にしたが

「思ったより…ずいぶん少ないな」

 

東京・練馬区に住む吉田隆一さん(59歳・仮名)は、妻・真理子さん(58歳・仮名)から知らされた真実に、しばらく言葉が出てきませんでした。

 

60歳定年で退職する予定の吉田さん。40年近く勤めた末に受け取る退職金は、平均よりもずっと多い約3,500万円程度受け取れるとみています。また、65歳から受け取れる年金は想定で月20万円。2年遅れて受給が始まる真理子さんは月12万円ほどと、夫婦で30万円を超える年金を受け取れる算段です。

 

「とりあえず、仕事を辞めたら、ちょっと贅沢に海外旅行にでも行こうか」

 

そう真理子さんに言うと、「うちにそんな余裕はないわよ」とぴしゃり。

 

現在、吉田さんは真理子さんと二人暮らし。子どもは独立し、これからは夫婦でゆったりとした時間を過ごす――そのはずでした。ところが、実際に手元に残る予定の〈老後資金〉は、たったの850万円だといいます。吉田さん、それまで抱いていた安心感が一気に崩れ落ちていきました。家計を管理し、貯蓄を担当してきた真理子さんに、「えっ、退職金3,500万円はもらえるはずなんだが、それはどこに消えるんだい?」と疑問をぶつけます。

 

真理子さんの試算によると、大きいのが〈自宅の大規模修繕費〉。現在住んでいる自宅は、築40年近くになる一戸建て。新築当時は最新設備を備えた注文住宅でしたが、経年劣化は避けられず、特に外壁や屋根の老朽化、給排水管の傷み、浴室やキッチンなどの設備更新が急務となっていました。見積もりの結果、修繕にかかるだろう費用はなんと1,500万円。外壁と屋根の塗装・補修で約200万円、水回りの全面リフォームで約400万円、今後を見据えたバリアフリーも考慮し、さらに耐震補強と断熱改修なども含めると、予想を遥かに上回る金額となったのです。また、修繕中の仮住まい費用や諸経費も上乗せとなります。

 

「こだわって建てた注文住宅だから、修繕費も高いのよ。いっそ建て替えるという手もあるし、しばらく頑張って住んで、70代になったら施設に入るという手もあるけど。どちらにせよ、結構な金額がかかることは確かね」と真理子さん。

 

また、60歳を前に始まった吉田さんの父親の介護も、家計に大きな影響を及ぼしました。要介護認定を受けた父親は施設に入所しましたが、月額20万円以上の費用が必要に。兄弟で分担したとはいえ、吉田家の負担は月に8万円。介護費用として、2年半で200万円以上を負担しています。