将来への不安や生活の厳しさから、つい後回しにされがちな年金保険料の支払い。しかし、後回しにし続けると、とんでもない事態に直面することになります
もう終わりだ…〈月収10万円〉38歳の独身男性、日本年金機構から届いた「最終通告」に撃沈。深夜、膝から崩れ落ちた「絶望の夜」 写真はイメージです/PIXTA

財産を差し押さえます…無視し続けた男を襲った「眠れない夜」

青い封筒を無視し続けていると、今度は「黄色い封筒」で、再び特別催告状が届きました。文面は以前よりも強い調子で、納付を促す内容です。それでも田中さんは、「どうせ脅しだろう」と真に受けず、支払いに応じることはありませんでした。

 

やがて、封筒の色は「赤」に変わりました。赤い封筒で届いた特別催告状には、最終通告を意味する言葉が並び、いよいよ「差押」の可能性が具体的に示唆されていました。さすがに田中さんの心にも、じわりと不安が広がります。「もしかしたら、本当にまずいのかもしれない」。しかし、それでも「自分だけは大丈夫」という根拠のない自信が、行動を鈍らせていました。

 

そしてある日、ポストに入っていたのは、これまでとは明らかに違う空気を放つ「最終催告状」と書かれた通知でした。そこには、「指定期限までに納付の意思が確認できない場合、国税滞納処分の例により、あなたの財産を差し押さえます」と、明確に記載されていました。

 

その夜、田中さんは憑かれたようにパソコンにかじりつき、「年金」「最終催告状」「無視」といったキーワードを打ち込み続けました。検索結果として表示されたのは、銀行口座が凍結された、売掛金が差し押さえられた、といった絶望的な体験談の数々でした。

 

特に田中さんを恐怖させたのは、「売掛金の差し押さえ」です。フリーランスにとって、クライアントからの信用は生命線。もし、唯一の定期収入源である取引先に、日本年金機構から「田中氏への報酬を差し押さえる」という通知が届けば、契約を打ち切られることは火を見るより明らかでした。それは、社会的な信用を失い、フリーランスとして完全に「終わる」ことを意味します。

 

「もう、終わりだ……」

 

気づけば、田中さんはパソコンデスクの前で膝から崩れ落ちていました。

 

国民年金保険料の滞納を続けると、最終的には財産の差し押さえに至ることがあります。厚生労働省の発表によると、2024年度、168,456件に最終催告状、99,962件に督促状を送付。さらに26,797件の財産差押えを実施しました。差押えの対象となるのは、「控除後所得300万円以上で7ヵ月以上保険料未納」。この条件は年々厳しくなり、いずれ無条件になる可能性もあります。

 

日本年金機構のウェブサイトには、納付が困難な場合の「保険料免除・納付猶予制度」について案内がされています。経済的な理由で納付が難しい場合でも、決して放置せず、所定の手続きを踏むことで、未納期間として扱われず、将来の年金額にも(一部)反映される道が残されています。

 

[参考資料]
厚生労働省『令和5年度の国民年金の加入・保険料納付状況』
日本年金機構『日本年金機構の取り組み(国民年金保険料の強制徴収)』