「貯蓄3,000万円もある。何とかなる」そう思っていた元エリート会社員が、配偶者の死をきっかけに直面したのは、暮らしの崩壊でした。家事も、地域の役目も、自分の健康管理さえも手に負えない。"生活力ゼロ"のまま迎えた老後が、いかに危ういものか。経済的には十分なはずなのに、なぜ生活が破綻してしまうのか。その実態と今からできる備えについて、FPの三原由紀氏が解説します。

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何もできないのは俺だった…貯蓄3,000万円・年金年額250万円の77歳元エリート会社員、「お前は三食昼寝付きでお気楽だな」と笑っていたが、妻の急逝で事態一変。生活崩壊に陥った「情けない現実」【FPの助言】
「お前は楽できていいよな」そんな冗談が現実になった日
加藤重男さん(仮名・77歳)は、神奈川県郊外の60坪戸建てで暮らす団塊世代の男性です。大手電機メーカーに勤務し、定年退職後も65歳まで継続雇用。企業年金を含む年金収入は年間320万円(妻の年金70万円含む)、預貯金3,000万円で「うらやましい老後」と言われる典型的な勝ち組でした。
そんな加藤さんは、自慢の芝生が美しい庭を持つ戸建てで、6歳年下の妻・秋子さんと二人で暮らしていました。料理、洗濯、掃除、近所付き合いなど、すべて秋子さんに任せきり。
「ママは三食昼寝付きでお気楽だな」「専業主婦は楽でいいよな」が口癖で、本人は愛情表現のつもりでしたが、秋子さんにとってはピリッとしたイヤミに聞こえていたかもしれません。いずれにしても、加藤さんは幸せに暮らしており、6歳も年下の妻が先に逝くなど、まったくの想定外でした。
「まさか自分が残されるとは思っていませんでした……」
3年前の春、秋子さんが心疾患で急逝。享年68歳でした。突然の別れに動揺しながらも、死後の手続きは何とかこなした加藤さんでしたが、それ以降の日常が一変することになります。