「貯蓄3,000万円もある。何とかなる」そう思っていた元エリート会社員が、配偶者の死をきっかけに直面したのは、暮らしの崩壊でした。家事も、地域の役目も、自分の健康管理さえも手に負えない。"生活力ゼロ"のまま迎えた老後が、いかに危ういものか。経済的には十分なはずなのに、なぜ生活が破綻してしまうのか。その実態と今からできる備えについて、FPの三原由紀氏が解説します。
何もできないのは俺だった…貯蓄3,000万円・年金年額250万円の77歳元エリート会社員、「お前は三食昼寝付きでお気楽だな」と笑っていたが、妻の急逝で事態一変。生活崩壊に陥った「情けない現実」【FPの助言】
備えるべきは「お金」ではなく「暮らしの設計力」
老後に必要なのは資金計画だけでなく、"生活の設計力"です。
ファイナンシャルプランナーとして多くのシニア世代から相談を受けていますが、「経済的に恵まれているのに生活が破綻する」ケースは確かに存在します。
従来の老後設計では「2,000万円問題」に代表されるように、資金面ばかりに注目が集まってきました。しかし、実際には「お金があっても幸せに暮らせない」という新たな課題が浮上しているのです。
特に団塊の世代の男性は、高度経済成長期の「男は仕事、女は家庭」という価値観の中で生きてきたため、家事や地域コミュニティとの関わりを学ぶ機会がありませんでした。定年後に「やっと自由な時間ができた」と思ったら、配偶者を失い、途方に暮れてしまう。これは個人の問題ではなく、社会構造的な問題でもあります。
重要なのは、お金の管理と同じように、日常生活の管理についても「計画的に準備すること」です。今からできる備えとして、以下の具体的な対策をお勧めします。
1)生活情報を「見える化」する
まずは、夫婦で生活情報を共有しましょう。
・各種契約先、支払い方法、パスワード
・医療機関、薬の情報、緊急連絡先
「何がどこにあるか」「誰に連絡すればいいか」を共有することが第一歩です。
2)家事・地域役割の「仮体験」
1週間程度、夫が家事・買い物・地域活動をすべて担ってみましょう。完全一人での「仮体験」により、できないことがはっきりと分かります。
3)「生活引継ぎノート」を作成
エンディングノートに加えて「日々の暮らしの説明書」を作成。これは残された配偶者のためだけでなく、自分自身の備えでもあります。
・季節ごとの作業(庭手入れ、大掃除など)
・緊急時連絡先、近所との関係性
4)地域サービスの事前調査
1人になった時に頼れるサービスを事前調査しておくと安心です。
・シルバー人材センター(庭手入れ等)
・地域包括支援センター(生活支援相談)
加藤さんは現在、芝刈り機を購入し、夜のパトロールにも参加。市の公民館が主催している料理教室にも通い始め、雑談を交わす知り合いもできてきたと言います。
「全部やってくれていた妻のすごさを、今になって痛感しています。『楽でいいな』なんて、とんでもない勘違いでした」
夫婦のどちらかが先に旅立つ……これは避けられない現実です。「まさか自分が残されるとは」「妻が先に逝くなんて」と後悔する前に、お金があっても暮らしが成り立たない事態を避けるため、"生活力の備え"について夫婦で話し合ってみてはいかがでしょうか。今からでも遅くはありません。
三原 由紀
プレ定年専門FP®