突然始まった「生活崩壊」の現実

秋子さんの死後、加藤さんの食事はコンビニと外食頼りで月12万円。「節約方法がわからない」ため減らせず、塩分過多で血圧上昇。洗濯・掃除も不十分で週2回クリーニング、月2回家事代行を利用し、月5万円ほどの出費増。自慢の庭は雑草だらけになり、秋になると落ち葉が近隣に飛散し苦情が続出しました。

なかでも加藤さんを最も苦しめたのは町内会当番。13軒で持ち回りの仕組みです。

・ゴミ当番:集積所清掃、ネット設置と回収
・資源回収:ビン・缶ボックス設置、回覧板配布
・夜間パトロール:週1回の防犯活動

 「妻がやっていた時は"大したことない"と思っていたのに、本当にきつい。特に真夏や真冬のパトロールは体力的にも限界です」

近所の人々は最初こそ「奥様を亡くされたばかりで……」と優しく声をかけてくれていました。しかし、ゴミ当番を3回忘れて朝8時に「お疲れ様です、お願いします」とピンポンで催促された時の気まずさは、今でも忘れられません。

「同じシニア世代の皆さんも頑張っているのに、自分だけ勘弁してもらうわけにもいかず……」

都内に暮らす娘に「町内会の当番がきつくて、手伝ってもらえないか」と電話で助けを求めても、「お父さん、今まで何もしないでお母さんに頼りきっていたツケでしょ。私だって仕事があるし、自分でなんとかして」と突き放されてしまいました。

「カネはある。でも、暮らしが崩れていく。どうしていいか分からないんです」

総務省調査が示す「高齢男性の生活脆弱性」

加藤さんのようなケースは珍しくありません。総務省「平成28年社会生活基本調査」によると、65歳以上男性の家事時間は1日平均36分。同世代女性(172分)の約5分の1に留まっており、多くの高齢男性が配偶者に生活全般を依存している実態が浮き彫りになっています。

生活力の欠如は、食生活の乱れ、セルフ・ネグレクト、社会的孤立、支出増加を連鎖的に引き起こします。「経済的に困っていないのに、暮らしと健康が破綻する」――これは従来の資金不足とは異なる老後リスクです。

実際、加藤さんの場合、妻の死後は年金収入が250万円(月約21万円)に減少したにも関わらず、生活費は妻の生前とほぼ変わらず月26万円かかっています。内訳は食費12万円(コンビニ・外食中心)、光熱費・通信費3万円、クリーニング・家事代行5万円、その他生活費6万円となっており、年金だけでは月5万円の赤字。預貯金を取り崩す生活が続いています。