日本最大の湿原に実在する“底なし沼”

北海道の釧路平野にある釧路湿原は、日本最大の湿原だ。広さは約2万6,000ヘクタールと、東京ドームおよそ6,000個分に相当する。そんな釧路湿原には、ヤチマナコと呼ばれ、恐れられる場所がある。その正体は底なし沼だ。

底なし沼とは、流砂現象が発生している泥沼を指す。フィクションの話ではなく、実在する自然地形だ。さすがに底は存在するが、一度はまると自力で抜け出すのは難しい。

流砂とは、砂や泥の地盤が水の流入で不安定となる現象である。踏んで圧力が加えられれば、泥中の水が抜けて足が飲み込まれてしまう。水はけの悪い湿原地帯では、特に形成されやすい。ヤチマナコも、そうした底なし沼の一種だ。

漢字では「谷地眼」と書き、「谷地」は湿原、「眼」はそのまま眼。湿原の目玉のように見えることから、この名がついたという。円状に膨らんだフラスコ型となっており、その中に水や泥が蓄積して底なし沼が形成される。春先の雪解け水が地下に流入し続けることで作られるという。

深さは最大で約3メートル。最も厄介なのは、普通の水たまりと区別がつきにくいことだ。そのため、かつてはうっかり足を取られてしまう事例が頻発したらしい。

現在は遊歩道が整備されているので、事故は激減している。また、仮に足を取られても、大体は胸のあたりで沈降は止まる。フィクションのように頭まで沈むことは少ないようだ。

しかし、1メートルの深さがあれば、死者が発生する可能性もあるという。水と混ざった泥は重く、もがくほどに体にまとわりついてくる。やがて泥は体に密着し尽くし、完全に固定されてしまう。そうなれば、自力での脱出は絶望的だ。溺死はなくとも、低体温症や脱水症などで命を落とすこともある。

釧路湿原では安易な行動は慎み、ルートに沿った観光を楽しもう。

出典:『47都道府県の怖い地理大全』(彩図社)より抜粋
[画像]釧路湿原に点在する底なし沼ヤチマナコ(Kei1962/PIXTA) 出典:『47都道府県の怖い地理大全』(彩図社)より抜粋

地形ミステリー研究会
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