遭難の7割強が「低い山」で起きている

標高が高い山と低い山、どちらが遭難しやすいだろうか? 高い山のほうが険しくて遭難リスクが高いと思うかもしれないが、実際に多いのは、低標高の山での遭難である。

山梨県警の発表によると、2020年度における111件の山岳遭難のうち、7割強が標高800メートル以下の標高の低い山で起きていた。2023年度に警視庁が発表した都道府県別山岳遭難発生状況でも、低山の多い東京都が2位(214件)だった。ちなみに1位は長野県(302件)である。

なぜ低山で遭難が多発するのか? 理由の1つに、道の複雑さが挙げられる。低山は人の出入りが多いため、遊歩道以外の道が交差している場合がある。林業用の作業道や獣道、廃止された道が混在していることもある。そのため、素人目では道がわかりにくいのだ。

登山道の整備が行き届いていない地方の山では、危険がさらに増す。正規の登山ルートが落ち葉や倒木で塞がれる、案内板の破損・風雨による劣化で道がわかりにくい、といった事態に陥る可能性があるからだ。

さらに、低山では登山道が草花によって覆い隠されるリスクもある。

標高が高い山の中には、気温が低く風が強い山が少なくない。そうした山では高木が育ちにくいが、低山は比較的気温が高く、風も弱い傾向にあるので、高い木々が頭上や周囲に生い茂っている。そのため、同じ景色が続きやすい。

春や夏になると、草花が登山道を覆い隠すこともある。方向感覚を失ってしまい、知らぬうちに遭難することもあるのだ。

「迷ったときは沢沿いに下る」は“危険”な行為

「迷ったときは沢沿いに下る」という対策を聞いたことがある人もいるかもしれない。しかし地形の特徴から考えると、これは危険な行為だとされる。

確かに川は人里に繋がっていることが多いが、その途中には崖や滝がある。崖下りは素人には難しく、滑落による骨折で動けなくなる事例も珍しくない。だが、これらを避けて回り道をすると、沢を見失ってまた遭難する可能性もある。こうした地理的要因が複合的に働き、低山では遭難事故が起きているのだ。

それにもう1つ、「油断」も事故の要因だ。低山だからと油断して準備不足で入山した結果、遭難してしまった。そんなケースもある。

高さに関係なく、地図やコンパスなどの装備は必ず調え、違和感を覚えたらすぐ引き返すことが大事だ。

地形ミステリー研究会