家計の管理は、家庭ごとにさまざまな形があります。収入が多いからこそ見えにくくなるお金の流れや、家族間の信頼が思わぬ形で揺らぐことも。ふとしたきっかけで明らかになる家計の真実は、私たちに安心と責任のバランスについて考えさせてくれます。
お願いだから、もう見ないで!「年収1,200万円」勝ち組のはずだった42歳夫。専業主婦の妻が「家計簿」を頑なに見せない衝撃理由…こっそり覗いたスマホの〈目を疑う取引履歴〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

「あの子のためなの!」妻の涙と衝撃の告白

亮介さんは、風呂から上がってきた志保さんを尋ねました。スマホを勝手にみてしまったことを詫びながら、取引履歴について聞くと、志保さんの顔はみるみるうちに青ざめ、やがてポツリ、ポツリと真相を語り始めました。

 

「……全部、健太のためよ」

 

志保さんによると、それらの支出はすべて息子の中学受験のための「追加投資」でした。大手進学塾の通常授業に加え、夫に内緒で、個別指導塾、弱点克服のためのカリスマ家庭教師との個人契約、海外のトップ大学生とのオンラインディスカッションなど、ありとあらゆる高額な教育サービスを受けていたのです。

 

「受験とはいえ、お金は無限にあるわけではないだろう!」

 

現在住んでいるのは、都内でも教育熱の高いエリア。クラスの7割ほどが中学受験に挑戦し、そのうち半数以上が実際に私立中学に進学しています。親同士は日々、「あそこの塾がいいらしい」「あそこの先生で偏差値が10上がった」などと受験に関しての情報交換を行っていました。そのようななか、努力してもなかなか成績が上がらない、クラスが上がらない……そんな壁に直面していたのです。何とか打破しようと、良い噂を聞いたものは、片っ端から試してみる、そんな状況に陥っていたのです。

 

「あの子の将来のためなの! あの子には最高の環境を用意してあげたい。ママ友たちの間で、どこの塾がいい、どの先生がすごいって情報が毎日飛び交っているの。何もしないなんて、無責任なことはできない」

 

志保さんの涙を見て、亮介さんは言葉を失いました。「任せるよ」といいながら、すべてのプレッシャーを志保さん1人に押し付けていただけかもしれない。志保さんがそこまで追い詰められていたこと、孤独な戦いを強いられていたことに、まったく気づいていなかったのです。

 

教育費は家計のなかでも聖域になりやすいところ。どんなに生活が苦しくても削減できない――そんなスパイラルに陥ることも珍しくありません。日本弁護士会『2020 年破産事件及び個人再生事件記録調査』によると、破産債務者の破産理由のうち「教育資金」は9.84%。人生における最大の支出である「住宅購入」(7.26%)よりも破産理由としては多く、それだけ削りづらい項目であることを示唆しています。

 

この1件で、亮介さんも息子の中学受験に深く関わるようになったそうです。

 

[参考資料]

日本弁護士会『2020 年破産事件及び個人再生事件記録調査』