「お金のことは全部、夫に任せていました」——これは夫を亡くした多くの妻が口にする言葉です。平田泰子さん(62歳・仮名)もその一人。夫が突然この世を去った日、彼女の人生は一変しました。この記事では、平田さんの事例と共に、今からでも始められる「夫婦で取り組む資産管理」について、FPの青山創星氏が詳しくお伝えします。
私、何もわからなくて…38年間連れ添った夫を失い悲嘆の62歳妻、遺族年金わずか「月9万円」に絶句。頼りは「残された資産5,000万円」だが、羞恥と後悔に沈んだワケ
父に感謝…FPが語る「エンディングノート」の意味
手続きが一段落した今、平田さんは同じ立場の妻たちに伝えたいことがあります。今からでも遅くないのです。
まず平田さんがしたのは、金融リテラシーを高めるための行動。地元の金融機関が開催する「女性のためのマネーセミナー」に参加しました。初めは用語の難しさに戸惑いましたが、回を重ねるごとに理解が深まっていきました。
次に、自分の資産状況を把握するために、すべての銀行口座、証券口座、保険証券をリスト化しました。これだけでも、大きな一歩です。
さらに、永瀬FPに相談したところ「エンディングノート」の作成を勧められました。これは、自分の資産情報やお葬式などの希望を記録するノートです。もし自分に何かあった時、子どもたちが困らないようにするためです。
永瀬FPは、自分の経験を話してくれました。
「私の父は、母や私たち子どものために小さなノートを残してくれました。そこには、取引金融機関名、ID・パスワードだけでなく、葬儀社の連絡先、お寺の電話番号、宗派、葬儀は親戚も呼ばず家族のみで行うこと、葬儀後にその旨を書いたはがきを送る送付先リスト、お布施やお車代の金額等々までもが細かく記されていました」
平田さんは、永瀬FPの穏やかな口調に引き込まれていきました。
「第1希望は直葬(通夜や告別式といった儀式を行わず、火葬だけを行う葬送形式)希望となっていましたが、死亡後24時間は火葬してはいけないと法律で決まっているため、第2希望の家族葬としました。そのため、葬儀会館で遺体を1日保管することになりました。唯一予定外だったのは、そのための氷代がかかったことでした」
永瀬FPは苦笑いを浮かべながら続けました。
「父のノートは本当によく作られていて、悲しみの中にいた私たち家族も戸惑うことなく必要な手続きを進めることができました。家族葬にしたことについても、故人の希望だったということで周りにも納得してもらえ、精神的にもとても楽でした。氷代のことだけは想定していませんでしたけど、それぐらいで済んで御の字です」
愛する家族への最後の贈り物として丁寧に準備をしていた気持ちを想い、平田さんは心の奥底から込み上げてくるものを感じました。
「そうね、私もエンディングノート、作ってみるわ。今度は私が子どもたちを困らせないように」
最も重要なのは、「お金の話は夫婦でオープンに」という姿勢です。平田さんの友人夫婦は毎月「家計会議の日」を設けていて、そこで投資状況や保険の見直し、将来の計画などを話し合うのだとか。
「素晴らしい習慣だと思います。私も夫とちゃんと話し合っていれば……」
平田さんは、そうポツリと零しました。