突然の心筋梗塞で夫が他界、口座凍結で生活費が枯渇

「奥様、ご主人が心筋梗塞で……」

この電話は、平凡だった平田さんの日常を一瞬で崩壊させました。62歳になったばかりの平田泰子さんは、38年間連れ添った夫・正雄さん(62歳)を突然失いました。悲しみに暮れる間もなく、彼女を待ち受けていたのは、想像以上に厳しい現実でした。

葬儀が終わり、親族が帰った後、初めて夫の書斎を整理しようとした時のことです。机の引き出しから出てきた大量の書類。証券会社からの取引報告書、投資信託の残高通知、海外ETFの資料……。目に入る言葉のほとんどが、平田さんにとって外国語同然でした。

夫は定年後も投資で資産運用をしていたようです。でも、彼は一度も平田さんにその内容を説明してくれませんでした。いや、正確には、平田さんが「お金のことは全部任せるわ」と言い続けてきたのです。専業主婦だった平田さんは夫から毎月決まった生活費を受け取ってやりくりし、お金の管理は夫にすべて任せていました。

夫の死後、銀行の口座も証券会社の口座も凍結されてしまいました。たとえ妻であっても夫名義の資産をすぐに払い出せないことを、そこで初めて知った平田さん。さらに、年金事務所で聞かされた遺族厚生年金と中高齢寡婦加算の額はわずか月9万円。到底生活できる金額ではありませんでした。

5,000万円の資産があるのに、用語がわからず途方に暮れる

相続手続きを進めるため、まずは夫の資産状況を把握しなければなりません。しかし、そこで大きな壁にぶつかりました。

「奥様、ご主人の投資口座には約5,000万円の資産がございますが、株式、債券、ETF、REIT...」

銀行や証券会社の担当者が話す言葉の半分も理解できません。すべてが初めて聞く用語でした。平田さんは恥ずかしさと後悔で顔が熱くなるのを感じました。38年間、一緒に暮らしてきた夫の資産運用について、何も知らなかったのです。

友人の佐藤さんは、「うちは夫婦で毎月家計会議をしているわよ」と言っていました。当時の平田さんは「面倒くさいわね」と思っていましたが、今となっては彼女が羨ましくてたまりません。

凍結された預金の払出は、相続手続き前でも一定額については可能とのこと。しかし、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書、相続関係届出書等々、揃えるのに手間と時間がかかりました。