「老後は安心のはずが」母の要介護で現実味を帯びた"弟問題"に苦悩

田村和代さん(仮名・65歳・埼玉県在住)は、夫(67歳)と二人暮らしの元会社員です。夫婦合わせて月25万円の年金収入があり、貯蓄も2,300万円ほどあります。晩婚のために子どもはいませんが、「夫婦二人なら、質素に暮らせばやっていける」と考えていました。

しかし、和代さんには一つ大きな悩みがあります。同じ埼玉県内の実家に住む母(85歳)と同居している弟・達夫さん(仮名・58歳)の存在です。

達夫さんは子どものころから内気な性格で、人付き合いが苦手でした。「小学校のころから友達が少なくて、家にいることが多い子でした」と和代さんは振り返ります。大学は何とか卒業したものの、就職してからが問題でした。最初に入った会社では「人間関係がうまくいかない」と半年で退職。その後も転職を繰り返しましたが、どの職場でも長続きしませんでした。

30代後半からは就職活動もしなくなり、実家に引きこもるように。そんな状態になってからは、心配した両親のすすめでカウンセリングを受けるなどの対策を試みました。しかし、「働けるようになれ」というプレッシャーが辛くなり、次第に支援者との接触も拒むようになったといいます。

現在58歳になる達夫さんは、家事も手伝わず、1日中自分の部屋でテレビを見たり、ゲームをしたりして過ごしています。「子どものころから兄弟仲は悪くなかったのですが、今の弟を『お荷物』のように感じることもあります」と和代さん。

これまでは父(3年前に死去)と母の年金で達夫さんを支えてきました。現在は母の年金23万円と貯蓄1,800万円が頼りです。しかし、その母が昨年から要介護状態になり、和代さんの不安は一気に高まりました。

「母が元気なうちは『まあ、何とかなるだろう』と思っていましたが、介護が始まると、母が亡くなったあとのことを真剣に考えざるを得なくなりました。弟は無収入になるうえに、一人では何もできません。でも、私たち夫婦にも老後があります。弟の面倒ばかり見てはいられません」

和代さんの夫は達夫さんの問題を理解していますが、和代さんは自分たちの老後資金を弟のために使うのが申し訳ないと心を痛めています。「母が亡くなったら弟はどうなるのか。私たちはどこまで支えるべきなのか」と、答えの見えない問題に直面しているのです。