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日本国民にも日本銀行にも国債を買う義務はない
国債に限定せず、外国の通貨で生きている外国の投資家が日本円の金融資産に投資するためには為替リスクを負う必要がある。1ドル=140円のときに日本円の金融商品に投資したが、戻ってくるときに1ドル=300円になっていれば、ドルでは投資したときの半分以下になってしまう。そのような危険を加味しても外国投資家が日本円の金融商品に投資するには、それだけの金融商品としての魅力が必要である。
わが国の国債に関して言えば、長期間、多くの他の国よりも低い金利しか出せていない。ゆえに為替リスクを負ってまで外国投資家がわが国の国債を買うことは期待できず、日本円で国債を買う投資家は基本的に日本円で生きている人たちに集約される。
さて、そのわが国が「収入<支出」の改善は目指さないと明言したとしよう。財政健全化というファイティングポーズすら取らなくなった国の国債に対し、わが国の投資家の中にはもう買わないと決める者が出てくる可能性もあろう。直ちにではないかもしれないが、過去に発行された国債は適宜償還すなわち国家による返済の時期が到来する。5年後でも10年後でも、そのときどきに償還される国債以上の金額で新たな国債が発行されて買われない限り、政府の財源はいずれ細っていくことになる。日本国憲法第29条における財産権の保障を持ち出すまでもなく、自国の国債だからといって日本国民にそれを買う義務はない。
現実としては既に国債のかなりの部分は中央銀行である日本銀行が買っている4のだが、日本銀行にも国債を買う義務はない。日本銀行法第3条で日本銀行の独立性は明記されている。これまでやってきたことを今後も続けるか否かは日本銀行の判断による。その判断は日本銀行の目的5である「物価の安定」と「金融システムの安定」に即して行われるため、必ず国債購入という結論が導かれるわけではない。「これまで上手くいってきた」状態は現時点の法律や制度で確実に担保されているわけではない点に注意が必要である。
わが国の財政と国債発行については、経済学上も様々な考え方があることは承知しており、これまで述べてきた内容に異論もあるだろう。とはいえ、日本円での国債発行は常に可能という前提の下、財政健全化を不要とまで断じるのは少々楽観が過ぎるのではないだろうか。
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4 日本銀行調査統計局「参考図表2024年第4四半期の資金循環(速報)」(2025.3.21)12頁によれば、2024年12月末時点の国債・財投債の中央銀行(日本銀行)保有比率は52%強。
5 日本銀行HP「日本銀行の目的は何ですか?」
https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/outline/a01.htm