日本は国家財政として「収入<支出」の状態が続いており、また、経済規模に対して債務残高の比率が非常に高くなっています。これ以上国債を増やして大丈夫なのかという不安に対して、国債があくまで日本円で発行され日本円で消化されている限り問題はないといいます。これは本当なのでしょうか。本稿では、ニッセイ基礎研究所の磯部広貴氏が、日本の財政と国債発行について詳しく解説します。
日本国民にも日本銀行にも国債を買う義務はない~お金を貸す側の視点から~ (写真はイメージです/PIXTA)

あなたは自分のお金を貸そうと思うか

ここにAさんという人がいたとしよう。

 

Aさんの家計はここ何十年も「収入<支出」が続いている。しかし破産していない。何故ならば、無担保で低利率にもかかわらず、たくさんの人がAさんにお金を貸しているからだ。期限がくるとAさんはきっちりと返済している。「収入<支出」ではあるけれど、ある借金の返済期限にはその貸主または別の貸主から同額あるいはそれ以上の借金ができるようだ。どうしてそんなことが続くのか理由は不明であるが、ともかくAさんはそれで上手くやってきた。

 

これまでAさんは「収入<支出」の状況について「少しずつでも改善します。収入が増えるよう、あるいは支出を減らすよう努力します」と言ってきた。しかしとうとう「努力はもうやめます。借金でやっていきます。これまでも上手くやってこれたのですし」と言い出した。

 

そのようなAさんに、あなたは自分の大切なお金を貸そうと思うだろうか。

国債を買う=政府にお金を貸す

Aさんに似た存在がわが国である。

 

国家財政として「収入<支出」の状態1が続いており、また、経済規模に比し債務残高の比率2が非常に高い。

 

国債とは国家が発行する債券であり、債券とは借金を定型的かつ多数の相手から行うための手段である。通例であれば貸主との間で契約条件を1つ1つ元本、利率、返済期限などと交渉していくところ、そのような交渉を複数人とそれぞれ行うことは大変な時間と労力を要する。そこで行政機関や大企業のように信用力のある組織は債券発行という手段を取る。一方の投資家にとっては、発行された債券を買うという形で、そこに記載された条件を受け入れて貸付を行うことになる。債券発行は単独の行為のように見えて、それを買う人がいないと意味を持たない。1対1で交渉する借り入れが双務契約であるのと同様に、お金を出す相手方が存在してこそ成り立つ。

 

昨今、わが国では消費税の減税が取り沙汰されている。実現した場合、従来の「収入<支出」の状態からさらに収入は少なくなる。そうなってはこれまでの行政サービスが維持できなくなるので、代替財源として一部から期待されているのが国債3である。前述の通り国債は詰まるところ借金であり、これ以上借金を増やして大丈夫なのかと不安視されるのは当然である。そのような不安に対し、国債で減税による収入減を代替しようと主張する立場から安心材料として掲げるのは、国債があくまで日本円で発行され日本円で消化されている限り問題はないとの理屈である。

 

外貨建てで国債を発行する場合、自国通貨の価値が下がってしまうと自国通貨ベースでの償還あるいは借金返済の金額が過大となってしまう。たとえば1ドル=140円のときにドル建て国債を発行した後、償還あるいは返済時点で1ドル=300円になっていれば日本円での負担は2倍以上となる。よって外貨建ては財政上危険であるものの、日本円での国債発行に止まる限り安全との主張だ。

 

しかし前提とされる日本円での国債発行は常に可能なものだろうか。
 
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1 財務省「日本の財政関係資料」(2025年4月)1~2頁によれば、令和7年度一般会計予算において、歳出約115億円に対し税収やその他収入で約4分の3しか賄えていない。

 

2 財務省「日本の財政関係資料」(2025年4月)15頁によれば、わが国の債務残高(中央政府、地方政府、社会保障基金を合わせたもの)は2022年でGDP比256.3%と世界186ヵ国・地域中最下位。

 

3 厳密には「赤字国債」を指す。財政法第4条第1項ただし書きに基づき公共事業費、出資金及び貸付金の財源となる「建設国債」と対比され、特例公債法に基づき公共事業費以外の歳出に充てる資金を調達する「特例国債」は、その性質から「赤字国債」とも呼ばれる。