(※写真はイメージです/PIXTA)

不動産売却時における消費税の負担義務は、「誰が」「どのような目的で」売却を行うかによって大きく変わるため、しっかりと基本的な知識を理解しておかなければなりません。本コラムでは、不動産売却時における消費税の考え方や、課税事業者かどうかを見極める方法、消費税等の税負担を抑える具体的な方法を解説します。

不動産売却で消費税が課税されるケース

不動産の売却で消費税が課税されるのは、売主が課税事業者であり、事業用として使用していた建物を売却する場合です。例えば、賃貸用マンションや店舗などを事業として所有・運用していた場合、その建物部分を売却する際には消費税がかかります。

 

一方で、課税事業者であっても自宅を売却する場合には消費税はかかりません。消費税は「事業者が事業として行うもの」に対して課されるため、事業とは無関係な私的な取引とみなされるためです。ただし、事業と私用が混在する物件では、事業に使っていた割合に応じて課税されることもありますので、事前に税理士に確認しましょう。

不動産売却で消費税が課税されないケース

以下に紹介するケースでは、不動産の売却により消費税が課税されることはないものの、間接的に消費税制度やインボイス制度の影響を受ける可能性もあるため、注意が必要です。

 

土地の売却や貸付をするとき

土地の売却や貸付については、消費税法上「非課税取引」と定められており、消費税は発生しません。これは、土地自体が利用価値を持つだけで消費される性質のものではないという考え方に基づくためです。

 

例えば個人が所有していた土地を売却する場合はもちろん、法人が事業用地として保有していた土地を手放す場合であっても、消費税の課税対象とはなりません。また、土地と建物を同時に売却する場合は、「建物部分」の売却代金にのみ消費税が課税されます。

 

個人や免税事業者が建物を売却するとき

建物の売却であっても、売主が不動産業を営んでいるとみなされない個人や免税事業者である場合には、消費税は課税されません。課税事業者でない以上、そもそも消費税を申告・納税する義務がないためです。

 

しかし、不動産業を営んでいるとみなされない個人であっても建物の売却によって課税売上高が1,000万円を超えた場合には、翌々年から課税事業者となる可能性があるため注意が必要です。ただし、課税事業者となっても、副業などを行わず給与所得のみで課税売上高が発生しない会社員などの場合は特に問題とならないでしょう。

不動産売却とインボイス制度の関係

(画像:PIXTA)
(画像:PIXTA)

 

不動産売却において、売主が課税事業者である場合、建物部分の売却価格に対して消費税がかかり、その分を国に納める義務があります。

 

ただし、2023年10月1日から始まったインボイス制度に伴い、免税事業者から新たにインボイス発行事業者として課税事業者となった場合には、消費税負担を軽減する特例が設けられています。この特例は、2026年9月30日までの間、消費税の納税額を売り上げにかかる消費税額の2割とすることができる、いわゆる2割特例と言われる制度で、消費税の納税負担を抑える有利な制度となっています。

 

また、事業用の物件を売却する場合には、インボイス(適格請求書)の有無が取引の大きな判断材料となる可能性があります。例えば店舗や事務所などの事業用物件を売却する場合、売主と買主の双方が課税事業者であれば、売主がインボイスを発行することで、買主は仕入税額控除を適用することができ、税負担を抑えられるからです。

 

ただし、アパートやマンションなどの居住用賃貸物件については、2020年の税制改正にて、居住用賃貸建物の取得や建設に係る消費税が仕入税額控除の対象外とされ、建物取得時の大きな消費税負担に関しては、インボイスの有無による影響がなくなりました。

 

実際に課税事業者として登録すべきかどうか、インボイス制度をどう活用するか、そして消費税を抑える節税方法については、専門的な判断が求められます。スムーズな売却と不利益の回避のためにも、事前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

 

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