ひとり息子と初孫を溺愛する70代夫婦

10年前、68歳のAさんとその妻Bさん(65歳)は、東京近郊の戸建て住宅に2人で暮らしていました。2人には息子のCさん(当時40歳)がおり、ひとり息子であることから、夫婦はCさんを可愛がって育ててきました。

そんなCさんは、同い年の妻と息子のDくんと都内の賃貸で暮らしています。そしてA夫婦は初孫であるDくんのことを溺愛。しょっちゅうC家へ遊びに行ってはDくんにお小遣いを渡します。

Aさんは度々「目に入れても痛くないとはまさにこのことだ」と豪語していました。

Aさんは60歳で地元の金融機関を定年退職したあと、すぐに特別支給の老齢厚生年金を受給。その後、65歳以降は夫婦で月23万円の老齢厚生年金を受け取っています。

当時のA夫婦には、自身の退職金やそのころ亡くなった親の遺産を含めて、約6,000万円の貯金がありました。夫婦は堅実な家計を心がけてきたことから「これだけあれば、死ぬまでに使い切ることはないだろう」と考えていました。

愛するひとり息子からの“おねだり”に二つ返事

そんなある日、A夫婦のもとに息子のCさんが訪ねてきました。

「元気? 実は今日、お願いがあってきたんだけど……」

そう言うと、Cさんは「息子の学費」と「住宅ローン返済費」の援助を要求しました。

聞けば、小学校4年生のDくんを中高一貫校に入学させる意向だそう。また、自宅の住宅ローンについては「返済初期に繰上げ返済したほうが利息が減って、返済期間を短くできる」と知人に聞いたことから、繰り上げ返済にあてる資金が欲しいと言います。

Aさんが「いくら欲しいんだ?」と聞くと、Cさんは「もろもろ含めて、1,000万円くらいお願いできると嬉しいんだけど」とあっけらかんとした様子。

これまでCさんの“おねだり”をほぼ無条件に受け入れてきた夫婦は、今回の話も二つ返事で快諾しました。

ただ、今回はいままでのようなCさんや孫への小遣いとは違い、かなりまとまった金額です。贈与税を懸念したAさんは、2,500万円まで特別控除額となる「相続時精算課税制度」を利用して生前贈与を行うことに。受贈者であるCさんに、くれぐれも相続時精算課税選択届出書を提出するよう伝えました。