内閣府「第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、60歳以上の男女が生きがいを感じる瞬間として最も多くあがっているのが「子供や孫など家族との団らん(55.3%)」でした。もっとも、なかには“子に怯える親”もいるようで……。子が成人を迎えた後の親子関係の難しさについて、とある老夫婦の事例をもとにみていきましょう。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。

もう来ないでくれ…「年金月23万円」「貯金6,000万円」60代夫婦が10年後に漏らした後悔。大好きだった息子に“怯える日々”を過ごすワケ【CFPの助言】
ひとり息子と初孫を溺愛する70代夫婦
10年前、68歳のAさんとその妻Bさん(65歳)は、東京近郊の戸建て住宅に2人で暮らしていました。2人には息子のCさん(当時40歳)がおり、ひとり息子であることから、夫婦はCさんを可愛がって育ててきました。
そんなCさんは、同い年の妻と息子のDくんと都内の賃貸で暮らしています。そしてA夫婦は初孫であるDくんのことを溺愛。しょっちゅうC家へ遊びに行ってはDくんにお小遣いを渡します。
Aさんは度々「目に入れても痛くないとはまさにこのことだ」と豪語していました。
Aさんは60歳で地元の金融機関を定年退職したあと、すぐに特別支給の老齢厚生年金を受給。その後、65歳以降は夫婦で月23万円の老齢厚生年金を受け取っています。
当時のA夫婦には、自身の退職金やそのころ亡くなった親の遺産を含めて、約6,000万円の貯金がありました。夫婦は堅実な家計を心がけてきたことから「これだけあれば、死ぬまでに使い切ることはないだろう」と考えていました。
愛するひとり息子からの“おねだり”に二つ返事
そんなある日、A夫婦のもとに息子のCさんが訪ねてきました。
「元気? 実は今日、お願いがあってきたんだけど……」
そう言うと、Cさんは「息子の学費」と「住宅ローン返済費」の援助を要求しました。
聞けば、小学校4年生のDくんを中高一貫校に入学させる意向だそう。また、自宅の住宅ローンについては「返済初期に繰上げ返済したほうが利息が減って、返済期間を短くできる」と知人に聞いたことから、繰り上げ返済にあてる資金が欲しいと言います。
Aさんが「いくら欲しいんだ?」と聞くと、Cさんは「もろもろ含めて、1,000万円くらいお願いできると嬉しいんだけど」とあっけらかんとした様子。
これまでCさんの“おねだり”をほぼ無条件に受け入れてきた夫婦は、今回の話も二つ返事で快諾しました。
ただ、今回はいままでのようなCさんや孫への小遣いとは違い、かなりまとまった金額です。贈与税を懸念したAさんは、2,500万円まで特別控除額となる「相続時精算課税制度」を利用して生前贈与を行うことに。受贈者であるCさんに、くれぐれも相続時精算課税選択届出書を提出するよう伝えました。