内閣府「第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、60歳以上の男女が生きがいを感じる瞬間として最も多くあがっているのが「子供や孫など家族との団らん(55.3%)」でした。もっとも、なかには“子に怯える親”もいるようで……。子が成人を迎えた後の親子関係の難しさについて、とある老夫婦の事例をもとにみていきましょう。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。
もう来ないでくれ…「年金月23万円」「貯金6,000万円」60代夫婦が10年後に漏らした後悔。大好きだった息子に“怯える日々”を過ごすワケ【CFPの助言】
“おねだり”はエスカレート…A夫婦の顔が曇っていく
その後Dくんが無事に中高一貫校に入学すると、Cさんはお礼もそこそこに「息子をどうしても有名難関私大の理系学部に入れたいから、進学塾代と家庭教師代を援助して欲しい」と言ってきました。
Aさんは悩みましたが、「これが最後だぞ」と言いながら言われるがまま1,000万円を追加で援助。
するとその後、Dくんが志望大に合格すると、今度は「大学の学費が思った以上だった。それに、息子が1人暮らしすることになって……。助けてほしい」と言って、さらに350万円を要求してきます。
大学の出願から入学までにかかる費用は…
ここまで援助を続けて資産が枯渇してきたAさんは、さすがに自分たちの資産が心配になってきました。
本当にそんなに必要なのか調べてみると、Dくんのように私大の理系学部に下宿して通学する場合、受験から入学までにかかる費用は下記のとおりとなっています※。
※ 出所:全国大学生活協同組合連合会「2024年度保護者に聞く新入生調査」
・出願のための費用(受験料など):12万7,700円
・受験の宿泊交通費など(同伴者を含む):9万8,900円
・入学した大学への納付金(入学金、授業料、施設拡充費など):101万1,500円
・入学しなかった大学への納付金(後日返金分を除く):26万3,300円
・合格発表等の宿泊交通費など:5万3,500円
・入学式出席の費用(交通宿泊費、同伴者を含む):4万8,300円
・パソコン・教科書・電子辞書など教材購入費:24万5,000円
・下宿探しの費用(交通宿泊費、家賃敷金礼金、仲介手数料など):27万4,300円
・新生活用品の購入費用:30万9,300円
・その他の費用(引越し代など):31万0,900円
合計……274万2,700円
「こんなにお金がかかるのか……」
納得したAさんは、Cさんに「本当にこれが最後の最後だ」と念押しをして、500万円を生前贈与しました。これで、相続時精算課税の特別控除額2,500万円分すべてを贈与したことになります。
約6,000万円の資産は10年で「6分の1」に…顔面蒼白のA夫婦
A夫婦は貯金を、こうした子や孫への援助のほか、自宅のリノベーションや新車の購入費用など、自分たちの「理想の老後」のためにも使っていました。そのため、徐々に残高が減っていく認識はあったものの、気づけばかつて約6,000万円あった資産は1,000万円にまで目減り。愕然とするAさんです。
しかしCさんからは「大学を休学させて、Dを海外留学させてやりたいんだ」などと、相変わらず“援助してくれ”という圧力をかけてきます。
このままでは、介護施設に入るための費用や医療費など、もしものときの資金が足りなくなるかもしれません。しかし、息子の“おねだり攻勢”がいつやってくるかわからない……。
「息子の帰省に怯える日々」に我慢の限界を迎えたA夫婦は、誰かに話を聞いてもらいたいと、昔からの知り合いであるファイナンシャルプランナー(FP)の筆者のもとを訪れました。